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論文題目「流動層を用いた水素還元による月土壌からの水製造」

下野芙由美

緒言
20世紀に世界各国で宇宙開発が始まり,その計画の一つに月面基地の建設が挙げられる.月面基地建設計画は1961年から始まり,1969〜1972年に実施されたアポロ計画では人類初となる月面への到達に成功した.今後の月面での有人活動には水や酸素が必要不可欠であり,月資源の利用による水,酸素の製造が望まれている.現在,月土壌の還元によって水や酸素を製造するプロセスが注目され,これにより月面基地建設計画の飛躍的な発展が期待されている.
これまで本研究室では固定層装置を用いた月土壌シミュラントの水素還元が行われてきたが,スケールアップの際の反応率の低下が懸念されている.そこで本研究では,反応効率が高く,連続運転が可能でスケールアップが容易な流動層装置を用いた水素還元実験を行い,月面での水および酸素製造プロセスの検討を目的とした.

実験方法
本研究で設計・作製した流動層水素還元システムは,反応炉部,ガス供給・制御部,計測部に大別される.試料を設置したインコネル製の反応管内に水素ガスを流す.電気炉を用いて所定温度まで加熱し,還元反応で生じた水蒸気を水分計を用いて絶対湿度として計測する.反応管内径は40 mm,実験条件は,水素ガス流量2 L/min,反応管入口圧力300 kPa,反応温度1073〜1273 Kとした.試料にはSiO2,Al2O3を主成分とする月土壌シミュラント(FJS-1) 100 gを用いた.FJS-1にはFe2O3:4.77 wt% ,FeO:8.3 wt%が含まれており,これらの酸化鉄が水素によって還元されると考えられる.
流動化実験によって圧力損失を計測し,これをErgunの式を用いた推算値と比較して最小流動化速度を求めた.水素還元実験では,水分計で計測した絶対湿度から,水生成速度および累積水分量を算出した.

実験結果
300 Kにおける反応管内のガス流速と圧力損失の計測では,いずれの試料量においてもErgunの式を用いた推算値と一致し,ガス流速0.03 m/sで圧力損失が一定となったことから,装置内での試料の流動が確認され,このときの流速を最小流動化速度とした.
水素還元による水生成速度は,いずれの反応温度においても,反応開始直後に水生成速度が最大となり,その後減少する.1073 Kと1173 Kを比較すると,高温になるにつれ反応速度が増加するため最大水生成速度は大きくなる.これに対し,1273 Kでは最大水生成速度が小さくなる.これは月土壌シミュラントに含まれるアルカリ成分が温度上昇に伴い溶融し,比表面積が減少したためであると考えられる.Fig. 4に同条件での累積水分量を示す.水生成速度と同様に,1173 Kにおいて累積水分量は最も高い値を示した

結言
流動層を用いた月土壌シミュラントの水素還元実験を行い,月土壌からの水製造に関する操作条件を検討した.月土壌シミュラントの流動特性を評価し,最小流動化速度を算出した.1073〜1273 Kの温度範囲における,反応温度が及ぼす水生成速度および累積水分量への影響を評価した.今後は,月土壌シミュラントの水素還元における反応機構の解明を行う.


化学工学会 第50回秋季大会 「熱エネルギーに関する基盤・応用技術の動向」シンポジウム
若手優秀講演賞(2018年9月)
「流動層を用いた水素還元による遷移金属酸化物の酸素欠損制御」
学士論文の内容は2018年10月12日にテレビ東京の「発想UNLEASH〜未来への自由研究〜」にてテレビ放映されました。
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