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論文題目「流動層を用いた水素還元による酸素欠損型金属酸化物の製造」

下野芙由美

緒言
現在,月面基地建設計画に向け,月土壌の水素還元による水や金属製造プロセスの開発が注目されている.同様のプロセスを用いた水素還元技術は,地上に存在する金属酸化物の還元に応用可能であり,還元の程度を制御することで,酸化数の異なる金属酸化物種の選択的な製造が期待できる.
酸素欠損型金属酸化物は高機能材料として注目され,TiOxやNb2Oxは光触媒,WOxはリチウムイオン電池の負極材など幅広い分野での応用が期待されている.現在これらの製造法の一つにプラズマを用いた手法があるが,反応が局所的で還元の進行が不均一である点が問題である.また,スケールアップを考えた場合,固定層装置は層内の熱伝導率が低く温度分布ができやすい.加えて,水素が局所的に流れにくい部分ができることから反応率の低下が懸念される.そこで本研究では,原料を流動させることで反応系全体での均一な還元が可能であり,固定層に比べ反応効率が高い流動層に着目した.これらの特長を有する流動層装置を用いて,水素還元による酸素欠損型金属酸化物の製造および酸素欠損度の制御を試みた.

実験方法
本研究で設計・作製した流動層水素還元システムでは,試料粉末を内径40 mmのインコネル製反応管内に設置し,電気炉を用いて所定温度まで加熱する.本実験では還元剤である水素ガスを常に流入し,生成した水蒸気を反応系から排除する.したがって,熱力学的には還元が困難な系においても,反応の進行が見込まれる.
熱力学的観点から金属酸化物の選定をおこなった.安定な酸素欠損型を持つ主な金属酸化物種の水素還元反応におけるGibbsの自由エネルギー変化(ΔG)をもとに検討し,実験で用いる金属酸化物として異なるΔGを有するWO3,Nb2O5,TiO2(アナターゼ型)を選定した.1000 KにおけるΔGはそれぞれ2.6,99.8,188.8 kJ/molである.
還元実験におけるガス流量および金属酸化物の重量は流動化実験により決定した.安定した流動状態を維持するため,水素およびヘリウムの混合ガス流量を,WO3およびNb2O5の実験では2.5 L/min,TiO2の実験では2.0 L/minにした.また,流動時の試料飛び出しを防ぐために試料充填時の層高も考慮し,各試料の重量をWO3は30 g,Nb2O5は20 g,TiO2は10 gとした.また,反応管入口圧力は300 kPa,還元温度は873〜1323 K,還元時間はWO3を30〜1800 s,Nb2O5を50〜660 s,TiO2を300 sとした.さらに,ガスの混合割合を変化させて,水素濃度を20〜100%の範囲で制御した.還元後の試料は粉末X線回折(XRD)および走査型電子顕微鏡(SEM)により評価した.

実験結果
還元温度1073 K,還元時間660 sにおける,WO3の水素還元による水生成速度の結果では,水素濃度の増加に伴い水生成速度が増加し,いずれの実験条件でも反応初期における最大ピークを含めて,複数のピークが確認された.既往の研究からWO3の水素還元は,WO2.9,WO2.72,WO2を経て金属Wへと段階的に進行することが報告されている.本実験における複数の水生成速度のピークは,この段階的な還元に起因する.実験後の試料粉末をXRDにより分析した結果より,水素濃度100%,80%ではWO2および金属Wの生成が確認できた.それに対して,水素濃度50%以下においては,WO3の酸素欠損型であるWO2.72が生成し,さらに水素濃度20%において単体のWO2.72の製造に成功した.WO3原料および水素濃度20%における生成物断面のSEM画像において,原料粒子の断面は粒子内部に複数のひびが見られるが,粒子全体に大きな凹凸は見られなかった.一方,水素20%における水素還元後の粒子断面では,粒子全体が繊維状に成長していることが確認できた.既往の研究よりWO2.72は異方性成長挙動を示すことが報告されていることから,粒子全体で均一なWO2.72が生成していると考えられる.以上のことから,流動層装置を用いることで粉末試料全体において均一な酸素欠損度の制御を行い,目的である酸素欠損型金属酸化物の製造が可能であることが示せた.
同様に還元温度1273 K,水素濃度100%,還元時間50 sの実験条件下でのNb2O5の水素還元により,酸素欠損型であるNb12O29の単相を製造した.また,還元温度1273〜1323 K,水素濃度100%,還元時間300 sにおけるTiO2の水素還元においても,生成物の粒子表面にTi9O17の生成が確認され,還元温度,水素濃度,還元時間などの操作条件によって金属酸化物種の酸素欠損度を制御し,酸素欠損型金属酸化物の製造に成功した.
各金属酸化物の水素還元におけるΔGに対する転化率の関係より,ΔGが小さい金属酸化物ほど転化率が高い傾向にあることがわかった.ここで,転化率を理論水生成量に対して実験で得られた累積水分量の割合と定義する.理論水生成量は,原料とする金属酸化物が金属単体まで還元されるときに生成する水分量である.また,同一の金属酸化物において還元温度を変化させ,異なるΔGに対する転化率を比較したところ,いずれの金属酸化物においてもΔGの減少に伴って転化率が上昇することがわかった.

結言
流動層装置を用いた金属酸化物の水素還元実験を行い,酸素欠損型金属酸化物の製造に成功した.また,様々な操作条件により酸素欠損度を制御することが可能であることが示せた.さらに,異なる金属酸化物種の水素還元を行い,金属酸化物の転化率がΔGに大きく依存することが確認された.これらの結果より,同プロセスによって他の金属酸化物においても酸素欠損度の制御が可能であると考えられる.以上より,流動層を用いた水素還元法を用いて,高機能材料としての応用が期待される酸素欠損型金属酸化物の製造が期待できる.



化学工学会 第50回秋季大会 「熱エネルギーに関する基盤・応用技術の動向」シンポジウム
若手優秀講演賞(2018年9月)
「流動層を用いた水素還元による遷移金属酸化物の酸素欠損制御」
学士論文の内容は2018年10月12日にテレビ東京の「発想UNLEASH〜未来への自由研究〜」にてテレビ放映されました。
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