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論文題目「DCアークによるホウ化物ナノ粒子の合成」

岡元大輔

緒言
ホウ化物ナノ粒子は高融点高硬度,耐腐食性,耐酸化性, 高電気伝導性といった様々な優れた特長を有している.例えばTiB2は耐摩耗性のコーティングや電磁遮蔽材として利用されているように産業分野で広く使用されており,白金代替触媒としての応用も期待されている.しかし,ホウ素は高融点材料であるため,効率よくナノ粒子を生産するには高温で原料を処理する必要がある.これまでは高周波(RF)熱プラズマを用いたナノ粒子合成プロセスが主に検討されてきた.一方,DCアークを用いたナノ粒子合成方法は,エネルギー効率が比較的高い,初期コスト,ランニングコストが廉価などの特長を有するが,ナノ粒子の粒径分布や結晶構造の制御性が高くないことが問題である.そこで本研究の目的は,DCアークによるホウ化物ナノ粒子の生成機構を解明することとした.DCアークを用いて異なる操作条件下でTi-B系ナノ粒子合成実験を行い,ナノ粒子に与える影響について検討し, その後RF熱プラズマで合成されたホウ化物ナノ粒子との比較を試みた.

実験
DCアーク発生を用いたナノ粒子合成装置は大別し,プラズマトーチ部を含むチャンバー,循環ガスの冷却器,蒸発によって生成したナノ粒子を回収するコレクターから成る.装置はそれぞれ冷却水で冷却されている.処理前原料として,45 μm,,純度99%のBの粉体(高純度化学研究所製)と10 μm,,純度99.9%のTiの粉体(高純度化学研究所製)を混合し,ペレットとして使用した.操作条件として原料組成比, プラズマガス組成比, シールドガス流量,アーク電流値を変化させた.陽極上に試料を設置後, 装置内を排気減圧し,アルゴンで置換を行い,プラズマガスを導入する.また, ガスを循環させることで, チャンバーからコレクター方向に向かって気流を発生し, アーク処理によって原料を蒸発させ, 合成されたナノ粒子をコレクターへと輸送する.循環ガスの一部を陰極部から流し,アークの外部を冷却するためのシールドガスとして使用した. コレクター内には円筒状焼結フィルターが設置されており, そのフィルター上に堆積したでナノ粒子を回収する. 電源には市販の溶接用定電流電源(株式会社ダイヘン,COMPA P500)を使用し, 電流は電源で制御した. 陰極としてφ6 mmのトリア入りタングステンを用いている. 陽極は銅製で試料台にもなっており, その上に処理前原料を設置してアークを発生させる.両電極の距離を調整することで電圧を調整した.合成されたナノ粒子はXRDで結晶構造の同定を行い,TEMを利用し粒子の平均粒径と粒径分布の測定を行った.

結果と考察 
DCアークにより合成されたナノ粒子のXRDパターンに着目すると,シールドガス流量の増加に伴いナノ粒子中の未反応Tiのピークが減少し,ホウ化物のピークが相対的に大きくなった.これは, シールドガス流量の増加に伴いアークが緊縮し,アークから原料への熱流束が大きくなったためだと考えられる.また,異なる熱源で合成されたナノ粒子のXRDパターンを比較すると,RFプラズマを用いて合成したナノ粒子中では未反応Tiの割合が多いことがわかる.これは,DCアークとRFプラズマで異なる蒸発過程を経ていることに起因すると考えられる.DCアークによるナノ粒子合成は,BとTiの混合融液から蒸発するプロセスである.一方RFプラズマでは,原料であるBとTiは混合粉体としてプラズマ中に導入される.したがって,原料の融点,沸点によりそれぞれ蒸発するタイミングが異なることが考えられる.以上より,DCアークの方が未反応のTiが少なかったのだと考えられる.
DCアークで合成したナノ粒子のTEM像から,数nm程度の小さい粒子から,100 nm近くの大きい粒子まで確認でき,粒径分布が大きいことがわかる.これは,原料金属蒸気の空間分布,およびDCアークが有する時間変動の影響であることが考えられる.今後,粒径分布の高度制御を実現するためには,上述の空間分布特性,時間変動特性を制御することが重要になると考えられる.

結言
DCアークを用いたホウ化物ナノ粒子の合成を試みた.各種操作条件を変化させることで,目的生成物であるTiB,TiB2ナノ粒子の合成に成功した.また,DCアークにより合成したナノ粒子とRFプラズマにより合成したナノ粒子とを比較することで,それぞれの熱源の特性を比較した.


プラズマ・核融合学会 九州支部第19回支部大会 講演奨励賞 (2015年12月)「高周波熱プラズマによるカーボン被覆シリコンナノ粒子の合成」


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