| ホーム | 渡辺教授 | 研究 | 業績 | 装置 | メンバー | 卒業生 | 学生業績 |
| 講義 | 学会報告 | 入学希望者 | トピックス | サイトマップ |

論文題目「誘導結合型熱プラズマによるカーボン被覆シリコンナノ粒子の合成」

岡元大輔

緒言
シリコンは電気・光学的に優れた性質を有しており,1954年のシリコンを半導体に用いたトランジスタの報告以降,特に半導体産業において広く使用されてきた.現在は,シリコンのナノ粒子化により発光特性を有することからディスプレイや医療分野への応用が期待されている.太陽電池の分野では,アモルファスシリコン(α-Si)が結晶性シリコン(c-Si)に比べ光吸収係数が高いという特長を有することからα-Siが普及している.その他に,表面での光の反射防止のため,カーボンによる表面処理が有効であることが知られ,カーボン被覆α-Siの需要は高い.また,リチウムイオン2次電池の分野では,固体/電解質界面が形成され,高い電気伝導性を示すこと,充放電サイクル時の体積変化への耐性が高まることなどの利点から,負極としてのカーボン被覆α-Siナノ粒子の使用に期待がかかっている.しかし,α-Siの合成には急冷プロセスが必要であるという点から,実用的なカーボン被覆α-Siナノ粒子の合成法は確立されていないのが現状である.
そこで,高温,高エネルギー密度,高急冷速度などの特長を有し,ナノ粒子合成および表面コーティングを単一工程で行うことが可能な熱プラズマに着目した.中でも,無電極放電であり高純度な生成物を得られるという特長を有する誘導結合型熱プラズマを用いた.本研究では,誘導結合型熱プラズマを用いてカーボン被覆α-Siナノ粒子を合成し,その生成機構を解明することを目的とした.

実験装置および分析手法
実験装置は大別してプラズマ発生部であるプラズマトーチ,ナノ粒子を合成するチャンバー,生成したナノ粒子を回収するフィルターで構成される.また,本実験ではチャンバー内にプラズマ流に対向するようにガスを流すことが可能なクエンチ管を設置した.トーチ内部にガスを流し,トーチ外部コイルから高周波電力を印加することによって誘導結合型プラズマを発生させる.原料粉体はキャリアガスによってプラズマ中に供給され,瞬時に蒸発し,その後プラズマ尾炎部において急冷される.この急冷プロセスにおいて原料蒸気は過飽和状態に達し,均一核生成,不均一凝縮および凝集成長を経てナノ粒子が生成する.生成したナノ粒子はガスによって運ばれ,フィルターに堆積する. 本実験では以下の3つの方針で実験を行った.
(i)α-Siナノ粒子合成実験:操作条件として投入電力を27-33 kW,原料供給速度を100-700 mg/min,キャリアガス流量をAr :3.0-6.0 L/min,クエンチガス流量をAr :0-20 L/minで変化させ,合成ナノ粒子のアモルファス化度に与える影響について検討を行った.
(ii)カーボン被覆c-Siナノ粒子合成実験:操作条件として投入電力を10-20 kW,原料供給速度を100-600 mg/min,初期C/Siモル比が0.5-2.0になるようメタンガス流量を0.16-0.64 L/minの間で変化させ,生成物の組成や構造に与える影響について検討を行った.メタンガスはクエンチ管より導入した.
(iii)カーボン被覆α-Siナノ粒子合成実験:クエンチガスとしてArを20 L/min導入し,操作条件として原料供給速度を100-300 mg/min,初期C/Siモル比が1.0-1.5になるようメタンガス流量を0.08-0.16 L/minの間で変化させ,合成ナノ粒子のアモルファス化度,および生成物の組成や構造に与える影響について検討を行った.クエンチガスおよびメタンガスはクエンチ管より,同時に,別々の流路から導入した.それぞれの合成実験において,チャンバー内大気圧とし,原料として粒径3 μmのc-Siを用いた.キャリアガス,インナーガスおよびシースガスとしてArを用いた.
合成ナノ粒子の分析として,透過電子顕微鏡(TEM)を用いた形態観察,粉末X線回折(XRD)を用いた結晶構造の同定,EELSによる元素マッピングを行った.また,その他に,表面分析として,X線光電子分光分析法(XPS)やラマ ン分光を用いた表面組成・構造の同定を行った.合成α-Siナノ粒子のアモルファス化度はZnOを標準物質として使用したXRDによる内部標準法により算出した.

アモルファスシリコンナノ粒子合成実験
α-Siナノ粒子合成実験として,投入電力を20 kWに設定し,クエンチガス流量を20 L/minで導入した時に合成されたナノ粒子のTEM像より,観察されたナノ粒子の大部分は粗い表面を有する球形であることが確認できた.また,平均粒径が20 nmであり,粒子が数~100 nmの範囲で分布していることも確認できた.
クエンチガス流量を0, 10, 20 L/minの間で変化させた時のアモルファス化度への影響を調べた結果,クエンチガス流量の増加に伴い,アモルファス化度が増加傾向を示し,また,90 %以上の高いアモルファス化度を得ることができたことが確認できた.この高いアモルファス化度が得られた理由として,クエンチガスによって熱プラズマの温度分布は高さ方向に縮小し,プラズマ下流における温度勾配が急になる.これにより急冷ガス流量を増加させるほど,温度分布は一層勾配を増し,アモルファス化が促進されたと考えられる.

カーボン被覆結晶性シリコンナノ粒子合成実験
カーボン被覆c-Siナノ粒子合成実験として,投入電力を10, 15, 20 kWに変化させた結果,プラズマ出力が15, 20 kWの条件において合成されたナノ粒子は,主成分として,本実験における目的生成物ではないSiCが生成されているのが確認できた.それに対し,プラズマ出力が10 kWの条件において合成されたナノ粒子は,目的生成物であるカーボン被覆c-Siナノ粒子であることが確認できた.プラズマ出力により生成物に違いが出たのは,メタンガスが導入される場の温度に起因すると考えられる.プラズマ出力が15, 20 kW時には,メタンガスが導入される場の温度がシリコンの融点(1,685 K)より高く,シリコンとCHxが気相反応したためSiCが合成されたと考えられる. 一方,プラズマ出力が10 kW時には,15, 20 kWに比べ高温領域が狭くなり,メタンガスが導入される場の温度がシリコンの融点より低くなると考えられる.その結果,固化したシリコンに対し,メタンガスの熱分解により生成されたCHxが吸着することで,ナノ粒子表面にSi-CHxが形成される.その後,表面に存在するCHxと気相中に存在するCHxが反応することで膜が形成・成長すると考えられる.このような理由で,SiCが合成されずにカーボン被覆c-Siナノ粒子が合成されたと考えられる.

カーボン被覆アモルファスシリコンナノ粒子合成実験
これまでの実験結果を踏まえ,カーボン被覆α-Siナノ粒子合成実験を行った.初期C/Siモル比を1.0,1.5に変化させた時のアモルファス化度への影響とEELSによる元素マッピングより,合成ナノ粒子は,高いアモルファス化度を有するカーボン被覆シリコンナノ粒子であることが確認できる.

結言
誘導結合型熱プラズマを用いてカーボン被覆アモルファスシリコンナノ粒子の合成に成功した.実験および分析結果から,急冷速度の制御,およびメタンガスが導入される場の温度の制御により,カーボン被覆アモルファスシリコンナノ粒子の効率的生産が可能であることが示された.


プラズマ・核融合学会 九州支部第19回支部大会 講演奨励賞 (2016年3月)
「高周波熱プラズマによるカーボン被覆シリコンナノ粒子の合成」

特許

研究論文

国際学会

国内学会