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論文題目「水プラズマの放電特性および有機物の分解機構の解明」

小関悠太郎

緒言
水プラズマは水を原料とする熱プラズマである.豊富なH,O,OHラジカルによる高活性,およびプラズマの持つ高エンタルピーという特長から,有機物を分解処理して水素を多く含む良質なガスを合成できる.そのためバイオマスのガス化装置としての利用が期待されている.

これまでの体系的な研究により,水プラズマによる水溶性有機物の分解機構は明らかにされつつある.水プラズマシステムでは,有機物を含んだ水溶液をプラズマ原料として熱プラズマを発生させる.すなわち,被処理物質である有機物を直接アーク放電領域に導入するため,効率的な分解処理が可能となる.熱プラズマによる有機物の分解は熱分解により進行し.気体,液体,固体生成物へと高速変換される.しかし,本研究で対象とするバイオマスは,難水溶性の有機物を多く含む.したがって,コロイド溶液あるいはエマルション溶液をプラズマ原料として水プラズマを発生する必要がある.つまり,水蒸気と被処理物質を含んだミストが混在した状態,またはコロイド状態として存在する「コロイドプラズマ」という新規なナノ混相プラズマ反応場が形成されると予測される.しかし,このような概念は新規性が極めて高く,コロイドプラズマの放電特性は明らかでない.
そこで本研究では,水プラズマのバイオマスガス化装置への適用を目指し,コロイド溶液をプラズマ原料として発生させたコロイドプラズマの放電特性を明らかにすることを第一の目的とする.さらに,分解対象物に木質バイオマスの主成分であるグルコースをモデル物質として選定し,グルコースの分解機構の解明を第二の目的とする.

実験方法
分解対象物を含んだ水溶液を吸湿材で吸い上げ,直流アーク放電部に直接導入することで,安定な水プラズマを発生させている.バイオマスガス化装置として用いるコロイドプラズマの放電特性を解明するため,プラズマ原料としてでんぷんコロイド溶液を用いた.さらに比較対象として,でんぷんと同様の物質から構成されるグルコース水溶液を選定した.でんぷんおよびグルコースの溶液中濃度を変化させることで,グルコース水溶液から発生させる均質なプラズマと,でんぷんコロイド溶液から発生させるコロイドプラズマの放電特性を比較した.プラズマ発生条件としては,アーク電流を6.0~9.5 Aとし,電極間距離を2 mmとした.放電特性の評価として,アーク電圧解析,発光分光分析を行った.さらに,高速度カメラによるアーク変動現象を観察した.撮影速度は420000 s-1,シャッター速度を1 μsとした.
バイオマスガス化装置としての本装置の特性を検討するため,グルコース水溶液の分解実験を行った.プラズマ発生条件は前述の通りである.操作条件として,陽極のノズルスロート長さを4.0~9.0 mmの範囲で変化させた.分解生成物は冷却管を通り気体,液体,固体に分離される.気体と液体を回収し,気体の分析にはガスクロマトグラフ(GC)と質量分析器(QMS)を使用し,液体の分析には液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS),高速液体クロマトグラフ(HPLC),紫外可視分光光度計(UV-VIS),全有機炭素計(TOC)を使用した.

実験結果
水プラズマの放電特性
グルコース水溶液およびでんぷんコロイド溶液の供給量の測定結果において,グルコース水溶液,でんぷんコロイド溶液ともに,濃度が高くなるほど供給量が低下していることがわかった.これは,濃度上昇に伴う蒸気圧の低下が原因である.でんぷんはグルコースに比べて供給量が低下している.でんぷんとグルコースは同じ構成単位であるにも関わらず,供給量に差が生じている.これは,でんぷんコロイド溶液の場合,グルコース水溶液よりも平均アーク電圧が低下し,アーク中でのジュール加熱量が低下したためである.この原因を解明するため,高速度カメラを用いてアーク挙動を観察した.
トーチ側方より観察したアークの高速度スナップ画像より,電極間の最も近接した位置でアークが点弧し,プラズマガス流の影響を受け伸長し,ノズル表面に達した後に消弧する周期的な挙動が観察された.アーク直径に着目すると,でんぷんコロイド溶液ではアーク直径がグルコース水溶液の約7%小さく,アークが緊縮していた.この理由としては,でんぷんコロイド溶液を用いた際にアークの電気伝導度が上昇したためだと現時点では推察している.このように,コロイドプラズマは従来の均質なプラズマ場とは異なる特性を有しており,コロイドプラズマという新規なナノ混相プラズマ反応場の概念の重要性が示された.

グルコースの分解機構
水プラズマ中の有機物の分解機構を解明するため,1.0mol%のグルコース水溶液を水プラズマで分解した.分解によって気体中にH2,CO,CO2が生成される.ノズルスロートが最も長い9.0 mmでは最も短い4.0 mmと比べて,COが13mol%減少し,CO2が31mol%増加した.これは,ノズルスロート長さが増加することで,アークの広がりが抑制された結果,有効な高温領域が増加したためである.その結果,OHラジカルと分解されたグルコースとの反応が促進された.
副生成物の同定は,グルコースの分解機構の解明には不可欠である.そこで,生成した液体成分の定性・定量分析を行った.定性分析から4種のアルデヒド(HCOH,CH3COH,(COH)2,CH3COCHO)が副生成物として確認された.ノズルスロートが長いほど副生成物が減少し,よりグルコースの分解が進んでいる.これは上述の通り,ノズルスロートが長くなったことで有効な高温領域が増加した結果,分解時間が増加したためである.
液体成分中の副生成物と気体成分の最終生成物から反応機構における中間生成物を推定した.分解対象物はプラズマの高温度場で分解された後,低温領域でのOHあるいはHとの反応により,H2, CO, CO2へと変換される.高温度場であるアーク領域を制御して,不完全な分解により生じる副生成物の生成を抑制することで,より効率よくバイオマスをガス化できる.

結言
バイオマスガス化装置として用いる水プラズマの放電特性を解明した.コロイドプラズマという新規な概念の重要性が示された.木質バイオマスの主成分であるグルコース水溶液の分解挙動を検討した.液体成分中にはアルデヒド類が存在し,これを副生成物とする反応がプラズマ中で進行する.生成気体中の合成ガス割合は平均85mol%と,既存のバイオマスガス化装置の2倍以上を達成し,本装置の適用可能性が示唆された.



修士論文の内容は2016年4月24日にBS-フジの「革新のイズム」にてテレビ放映されました。
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 修士論文の内容は2017年9月17日にBSジャパンの「未来EYES」にてテレビ放映されました。
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化学工学部門2017年度修士中間発表
優秀発表賞 (2017年2月)
「水プラズマにおける有機廃棄物の分解機構の解明」

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