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論文題目「多相交流アークにおける温度変動特性の解明」

今辻智幸

緒言
ガラス産業はエネルギー多消費型産業である.ガラス製造における消費エネルギーの70%以上がガラス溶融過程で消費されており,ガラス溶融技術の見直しが求められている.そこで,熱プラズマなどの高温熱源を用いた革新的ガラス溶融手法であるインフライト溶融技術が期待されている.インフライト溶融技術はガラス溶融に必要なエネルギーを削減することを目的としており,時間的・空間的に均一な高温場が求められる.
そこで,熱プラズマの中でエネルギー効率が高く,プラズマ体積が大きい,ガス流速が遅いといった利点を持つ多相交流アークが注目されている.ガラス溶融特性の評価により,インフライト溶融に適した熱プラズマ源であることが報告されている.さらに,高速度カメラ観察により多相交流アークの変動現象が明らかにされている.しかし,多相交流アークの温度特性に関する研究は充分でない.
一般的に,アークの温度計測には,波長分解能が高く,計測精度の信頼性に優れている発光分光法が用いられてきた.これにより,定常または軸対称なアークの温度計測が行われている.しかし,発光分光法は,2次元の空間情報を得ることは困難であり.非定常かつ非軸対称な多相交流アークの温度計測には適していない.そのため,高い時間分解能および広範囲な領域の同時計測が可能である新規な計測手法の模索が必要である.
そこで,多相交流アークの温度特性を明らかにするため,高速度カメラとバンドパスフィルター(BPF)光学系を組み合わせた新規な温度計測手法の確立を行った.さらに,確立した計測手法を用いて,放電相数および雰囲気圧力が多相交流アークの温度特性に及ぼす影響の解明を試みた.

実験装置および計測手法
多相交流アーク発生装置は,炉側面から複数電極を放射状に均一に挿入し,位相をずらして電圧を印加させ,アークを発生させる熱プラズマ発生装置である. 本研究では,6本および12本の電極を使用し,それぞれ各電極60°および30°毎位相をずらして放電させた.また,雰囲気圧力を40〜120 kPaの範囲で変化させ,温度特性に及ぼす影響を評価した.各電極のアーク電流は100 A, 電極間距離は100 mmとした.プラズマガスとしてArを用い,各電極のシールドガスとしてAr (3 L/min)を流した.
熱プラズマ中では,様々な由来による発光が生じているため,変動を有する非軸対象の温度場を可視化することは困難であった.そこで,バンドパスフィルター(BPF)光学系を組み合わせた計測システムを用いて,特定の2波長のみの発光を高速度で2次元同期観察することにより,温度計測を行った.温度計測には,Ar原子からの線スペクトルによるボルツマンプロット法に基づきAr原子の励起温度を評価した.2波長における相対強度比をとることで,励起温度を算出した.
温度算出に用いる2波長を,(i)〜(iii)の選定基準に従って選定した.(i)線スペクトルの分離・抽出,(ii)BPFの透過特性,(iii)波長間における異なる励起準位のエネルギー差を考慮し,BPFの波長を675 nmと794 nmとした.
算出温度の精度向上のために,(i)波長および温度毎での連続スペクトルの混入率,(ii)波長毎のBPF透過特性,(iii)計測レンズの透過特性およびCCD検出部の感度特性をそれぞれ考慮した.
高速度カメラ観察による温度計測手法の確立するため,計測精度の高い発光分光法によって計測した温度結果と比較し,妥当性の検証を行った.

実験結果
高速度カメラと発光分光法によって算出した電極下2 mmにおけるアーク温度は,陽極時では約8000 K,陰極時では約12000 Kであり,両計測手法による温度結果はおおよそ一致した.
以上より,高速度カメラ観察による温度計測手法の確立に成功したと結論付けられる.そこで,確立した温度計測手法を用いて,放電相数および雰囲気圧力が多相交流アークの温度特性に及ぼす影響の検討を行った.
6相および12相放電における多相交流アークの高速度カメラ画像と温度分布のスナップショットでは複雑なアークがミリ秒オーダーで変動している様子が見てとれる.また,アークは6000〜13000 Kの温度範囲を有しており,電極近傍は特に10000 K以上の高温となっていることがわかる.
放電相数の増加に伴って,アーク領域が増加していることが見てとれる.これは,放電相数の増加に伴い,他電極から発生するアークのローレンツ力によりアークのスイングが大きくなり広範囲な領域の温度場が得られたと考えられる.
アークの面積は,電極で囲まれる放電場におけるアークの占有率として評価した.雰囲気圧力の増加に伴い,アークの面積変動が大きくなっていることが見てとれる.低圧下では,アーク径が大きく広がり,圧力の増加に伴いアーク径が細くなることが報告されている.従って,圧力の増加に伴いアーク中の電流密度が増加することで,ローレンツ力の影響を大きく受けるため,高圧下でのアーク変動が大きくなったと考えられる.
異なる放電相数の各雰囲気圧力におけるアークの平均面積では,各放電相数において雰囲気圧力の増加に伴い,アークの平均面積は減少していることがわかる.これは先述の通り,雰囲気圧力の増加に伴いアーク径が細くなるためだと考えられる.6相と12相放電の40 kPaから120 kPaにおけるアーク占有率の差は,それぞれ15%と7%であり,圧力増加に伴うアーク面積の減少幅が小さくなっている.これは,12放電では,6相放電と比較して,アークが中心部に広範囲かつ,より長い時間存在しているおり,圧力増加によってアーク径が細くなり,アーク面積が減少する影響を軽減しているためであると考えられる.
実プロセスに応用するには,均一かつ広範囲な高温場が求められる.従って,効率的な処理プロセスにはアーク面積の大きい12相放電かつ面積変動の小さい低圧条件が最も適していることが示された.

結言
本研究では,高速度カメラと適切なBPF光学系を用いることで,従来困難であった非定常,非軸対象である多相交流アークの温度場の可視化に成功した.放電相数および雰囲気圧力が及ぼす温度特性への影響を検討した結果,放電相数および雰囲気圧力の制御により,変動を有する高温場の制御が可能であることが示された.


プラズマ・核融合学会 九州支部第19回支部大会
講演奨励賞 (2016年3月)

「多相交流アークの温度特性に及ぼす雰囲気圧力の影響」
この度は講演奨励賞という栄誉ある賞を頂きまして,大変うれしく,また光栄に思います.
私がここまで励んでこられましたのも,常日頃から熱心にご指導してくださった渡辺先生をはじめとし,田中先生や研究室の皆さまのおかげです.
この場をお借りして,皆様に心より御礼申し上げます.

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