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論文題目「大気圧水プラズマによる難水溶性有機物の分解」

太田 剛

水プラズマは通常外部に捨てている冷却水を直接放電領域に吹き込み,プラズマガスとして用いるため,90%以上の高い熱効率を得ることができる.また,本来共存させにくいOラジカル,Hラジカルを豊富に有するため,新しい廃棄物処理プロセスとして期待されている.本研究は,難水溶性の有機化合物である1-デカノールを処理対象物質として選定し,水プラズマ中での分解,その分解機構を解明することを目的とした.しかし,プラズマガスとして1-デカノールに何も前処理を行わず,水と共にプラズマガスとして用いた場合,すぐに水相と油相に分離してしまい,1-デカノールと水の蒸発に偏りが生じてしまう.したがって,本研究では1-デカノールを,界面活性剤であるTween60を用いることでエマルションとして水に分散させ,プラズマガスとして用い分解実験を行った.また,水溶性の直鎖アルコールである,1-ブタノールの水プラズマを用いた分解も行い,1-デカノールエマルションの分解実験と比較することで,分解メカニズムについて検討した.エマルション中の1-デカノールの最大の濃度は,エマルションの室温での安定性から,0.5mol%とした.

1-デカノールエマルションの分解実験では,1-デカノール濃度を0.5mol%と固定し,アーク電流を6,7,8 Aに変化させた場合と,アーク電流を7 Aと固定し1-デカノールを0.1,0.25,0.5mol%に変化させた場合で検討を行った.水溶液である1-ブタノール水溶液の分解実験は,アーク電流値を7 Aと固定し,濃度を0.25,0.63,1.25mol%と変化させ,原料溶液中の炭素原子の割合を1-デカノールエマルションと一致させた.

実験結果より,以下の結論を得た.1-デカノールの分解率は99.9999%以上であり,また有機炭素の除去率も98%以上であることがわかった.したがって,難溶性有機物であってもエマルション状にすることで処理することができることがわかった.1-デカノールエマルションの分解生成液の全有機炭素(TOC)量が増加しても,pHは7付近であり,分解生成物中には酸がない,または存在していてもごく微量であることがわかった.一方,1-ブタノール水溶液の分解生成液は,TOC量が増加することに伴い,pHが減少する傾向が見られ,酸が生成されたことを示した.液体クロマトグラフィーの結果から,1-デカノールの分解生成液にはホルムアルデヒドが含まれる.一方,1-ブタノールの分解生成液にはホルムアルデヒドの他,ギ酸が含まれることがわかった.したがって,1-デカノールのエマルションと,1-ブタノール水溶液では,水プラズマ中での分解機構が異なり,エマルション状にすることで,酸化が阻害されることがわかった.


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