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論文題目 「パラアルデヒド解重合反応を利用した冷熱発生用ケミカルヒートポンプ」

川崎春夫

ヒートポンプは、地球規模の環境問題である二酸化炭素削減に貢献するエネルギーシステムとして注目を浴びている。しかし、多くのヒートポンプは環境に問題のある冷媒を用いている。近年、代替冷媒の研究開発や、ケミカルヒートポンプの研究開発に対する期待が高まっている。そこで本論文では冷熱発生用のケミカルヒートポンプに適した有機化学反応を検索した。その結果、2成分からなるパラアルデヒド/アセトアルデヒドアルデヒド反応系(パラアルデヒド系)を選定した。本論文で提案したパラアルデヒド系ケミカルヒートポンプはパラアルデヒド解重合反応の反応熱を冷熱として利用する。本論文はパラアルデヒド系ケミカルヒートポンプの熱力学検討及びパラアルデヒド解重合反応速度を基にしたシステム解析を検討しまとめたものであり、以下に示す7章からなる。

第1章「緒言」では、既往のケミカルヒートポンプの研究例を紹介した。ケミカルヒートポンプは、有機化学反応系、無機化学反応系、水素吸蔵合金系、クラスレート系、物理化学的なエネルギーを利用した吸収式や、吸着式ヒートポンプなどに分類することができる。その中で多くの種類の無機化学反応系が提案され研究されている。しかし無機化学反応系は反応物が固体のため、連続運転が難しく、また熱エネルギーの取り出しに問題がある。一方、有機化学反応系は複雑な反応系が多いためヒートポンプへの適用例が少ない。しかし有機化学反応系は液体反応系が多く、熱エネルギーの取り出しや連続運転が行いやすい利点がある。これらをふまえて新たに開発すべきケミカルヒートポンプの形態を明らかにした。そして本論文の目的は新しい有機反応系を用いた冷熱発生用ケミカルヒートポンプの効率および実用性について検討することである旨を述べた。

第2章「パラアルデヒド系ヒートポンプの熱力学的検討および冷熱発生システムの提案」では、冷熱発生に適した有機化学反応系の検索を行い、パラアルデヒド/アセトアルデヒド反応系を提案した。この反応系を用いたパラアルデヒド系ケミカルヒートポンプは従来の圧縮式ヒートポンプに化学反応を加えた新しい冷熱発生型ヒートポンプシステムである。本システムの熱力学的評価を行うために反応平衡時の組成および気相圧力を求めた。熱力学的評価の結果、本システムの効率は一般的な圧縮式ヒートポンプの成績係数(COP)と同程度であった。しかし実際のシステムは平衡論的な状態で冷熱発生をすることは不可能である。そこで、パラアルデヒド系ヒートポンプの評価に必要な検討要素についてまとめ、第3章以降で検討を行った。

第3章「パラアルデヒド系ヒートポンプにおける吸熱反応器の検討」では本システムの吸熱反応器の検討するために、パラアルデヒド解重合反応について解析を行った。本システムの冷熱発生は、吸熱反応器内におけるパラアルデヒドの解重合反応速度が重要である。パラアルデヒドの解重合反応速度を286 Kから303 Kの温度範囲で固体酸触媒(Amberlyst15E)を用いて測定を行った。本反応の反応機構は4段階の素反応からなる。第一段階は、パラアルデヒドの活性サイト上への吸着、第二段階目は活性サイト上でのパラアルデヒドの開環反応および中間生成物の生成、第三段階は中間生成物の分解反応、第四段階はアセトアルデヒドの活性サイトからの脱離である。律速段階は第二段階目のパラアルデヒドの開環反応である。反応速度式はLangmuir-Hinshelwoodモデルを用いて求めた。得られた速度式は第6章の「パラアルデヒド系ヒートポンプの評価と実用化への検討」のシステム計算で用いた。また吸熱反応器の形式としては、充填物を触媒化した気液接触面積の大きいトリクルベット型の反応器の使用が望ましいことを述べた。

第4章「パラアルデヒド系ヒートポンプにおける副反応の検討」においてパラアルデヒド系の副反応について検討した。副反応は主に反応性の高いアセトアルデヒドを経由して起こる。副反応物は主にアセトアルデヒドがアルドール縮合したアルドール化合物が反応して生成したクロトンアルデヒド、およびアルドール化合物とクロトンアルデヒドが反応した3-methyl-5-heptenal-3,4-diolやさらに重合した化合物であった。副反応を抑制するためには、システム内で塩基性物質を除去すること、高温で操作しないことである。またクロトンアルデヒドの生成を抑える触媒の開発が必要であることを述べた。生成したクロトンアルデヒドの飽和蒸気圧はアセトアルデヒドより低い。このため吸熱反応器内で、液体のクロトンアルデヒドが残留しやすい。そこで吸熱反応器と発熱反応器間を液体が循環するサイクルを提案した。このシステムの効率を熱力学的に検討を行った。液体の循環量が一定の場合、作動媒体中のクロトンアルデヒドの濃度変化による冷熱発生量およびCOPの変化は少ない。また、液体の循環量が低いほど冷熱発生量およびCOPを高く維持することが可能であることを明らかにした。

第5章「パラアルデヒド解重合反応に適した固体酸触媒の選択」では、吸熱反応器の性能を高めるために、固体酸触媒の酸強度とパラアルデヒドの解重合反応速度との関係について検討を行った。はじめに触媒の酸強度分布を明らかにした。つぎに触媒の酸強度分布を変化させパラアルデヒドの解重合反応速度を測定した。この結果より、低温(286 K)においてパラアルデヒドの解重合反応に高活性な固体酸の酸強度は-3.2より強い活性サイトであることを明らかにした。また強い酸強度を持つシリカ・アルミナ触媒はパラアルデヒドの解重合反応の活性が低いことが判明した。このことからパラアルデヒドの解重合反応には有効な酸強度の範囲があることを示唆した。酸強度と反応速度との関係の結果は、第6章「パラアルデヒド系ヒートポンプの評価と実用化への検討」で用いた。

第6章「パラアルデヒド系ヒートポンプの評価と実用化への検討」において、パラアルデヒド系ヒートポンプの反応速度を考慮したシステム計算を行った。第3章で得られた反応速度式を用いてシステム効率について数値計算を行った結果、ヒートポンプの成績係数および冷熱発生速度は、吸熱反応器内での解重合反応量を増加させると増加するが、必要触媒量も増加する。触媒質量当たりの冷熱発生速度は他のケミカルヒートポンプを上回っている。また触媒量は触媒有効係数に大きく依存しており、作動媒体の循環流量を1.0 g疽-1とした場合、吸熱反応器に触媒有効係数が0.6以上の触媒を0.1 kg充填する必要があることを示した。さらに第6章では吸熱反応器内における触媒の酸強度の影響を考慮したシステム計算を行った。その結果、酸強度が-4.3から-7.1の範囲の触媒を用いることにより、吸熱反応器の触媒量を0.1 kgから0.05 kgまで下げることが可能であることを明らかにした。この結果より、少ない触媒量でも適正な酸強度をもつ触媒を用いれば、本ヒートポンプシステムは高い性能で冷熱発生が可能であることを示した。

第7章「結言」において、パラアルデヒド系ヒートポンプについて要点を整理し、さらに今後の研究課題について述べ、本論文の総括を行った。


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