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論文題目「金属酸化物の水素還元における反応速度論的検討」

齊藤凌我

緒言
月面基地建設計画に向けて,月土壌の水素還元による水や金属製造プロセスが注目されている.同様の水素還元技術は,地上に存在する金属酸化物の還元による,金属や酸素欠損酸化物の製造へと応用可能である.
酸素欠損酸化物は高機能材料として注目されている.TiOxやNb2Oxはスパッタ用ターゲット材として実用化されており,WOxはリチウムイオン電池の負極材への応用が期待されている.これらの製造法として,流動層や固定床を用いた水素還元法が有望である.しかし,酸素欠損酸化物の生成機構は充分に理解されていない.そこで本研究では,熱重量分析装置を用いて金属酸化物を水素還元することで酸素欠損酸化物を製造し,水素還元機構の解明を目的とする.

実験方法
本研究で使用した熱重量分析では,供給ガスは水素濃度4 %を上限とし,ヘリウムとの混合ガスを使用した.月面での水素還元を目標として月土壌シミュラント,イルメナイトを試料とした.また,本手法の地上応用を目指し,安定な酸素欠損構造を持つ金属酸化物のGibbsの自由エネルギー変化(ΔG)に着目した.難還元性の物質としてNb2O5,還元が容易な物質としてSnO2,WO3を選定した.混合ガス流量を1.0 L/minとし,等温実験での還元温度を1073~1273 Kで制御した.還元後試料はX線回折(XRD)および走査型電子顕微鏡(SEM)により評価した.

実験結果
水素還元による生成物を,便宜上Nb2O5-xとしたときのx値を用いて,還元の時間変化を評価したところ,各温度においてx=1に収束している.よって1073〜1273 Kの温度範囲ではいずれもNbO2まで還元が進行したことがわかる.1073 K条件のみ,20minにおいて明確な還元速度の変化が確認され,その時のx値は0.14であった.
還元温度を1073 K.反応時間を20minとして得られた試料のXRDにおいて,原料であるNb2O5の回折ピークが広角側に約0.3度シフトしたピークと,Nb2O4.83に帰属されるピークが確認できた.生成物は2相からなり,未反応のNb2O5が充分に少ないと言える.
酸化ニオブは,Nb2O5からNb2O4.83への酸素欠損過程において,複数の欠損形態(Nb2O4.91 Nb2O4.94 Nb2O4.96 Nb2O4.98)が報告されている.Nb2O5からNb2O4.83への還元が完了すると,x=0.17であるが,本処理後試料のxは先述の通り0.14であった.よって生成物の一部はNb2O4.83であり,それ以外は,x=0.14未満の範囲で還元が進行した酸素欠損型酸化ニオブと考えられる.以上より,本実験における生成物は,Nb2O4.83とNb2O5-x(4.91≦5-x≦4.98)からなる酸素欠損酸化ニオブであると結論付ける.

結言
熱重量分析装置を用いた水素還元実験により酸素欠損型酸化物の合成に成功した.反応温度,水素濃度を操作することで酸素欠損の制御が可能であることが示された.