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論文題目「高速度カメラを用いた多相交流アークの電極蒸発現象の解析」

長尾征哉

緒言
多相交流アークは,熱プラズマの中でもエネルギー効率が高く,プラズマ体積が大きい,ガス流速が遅いという特長を有する.したがって,多量の粉体処理に適しており,ナノ材料創製プロセスへの展開が期待されている.しかし,新規な熱プラズマ発生手法であり,電極消耗現象の理解が不充分である.そこで本研究では,電極蒸発による電極消耗現象の解明を目的とし,放電中の電極から発生する金属蒸気の可視化および電極温度測定を行うことで,電極蒸発機構の解明を試みた.

実験方法
多相交流アーク発生装置は,12台の交流電源を利用し,電極間に広範囲の高温領域を安定的に発生させる熱プラズマ発生装置である.
電極材料としては高融点,高沸点材料であるタングステン(以下W)を主成分とし,仕事関数が低く熱電子を放出しやすい酸化物を添加した電極を用いた.本研究では,添加酸化物が及ぼす電極蒸発現象への影響を明らかにするため,ThO2, La2O3をそれぞれ2wt%添加させた電極を用いて比較した.また,アーク電流値を80~120 A,電極の酸化防止に用いるArシールドガス流量を2~7 L/minとした.
様々な発光を有する電極近傍のアークから,特定の波長のみを透過するバンドパスフィルター(以下BPF)を用いることで,W蒸気からの線スペクトルのみを可視化した.ただし線スペクトルの発光強度は,その発光種の数密度と温度に依存する.そこで,W蒸気(393 nm),Ar原子(738 nm)を同期観察し,それらの相対強度を算出することで,W蒸気の相対濃度を評価した.高速度カメラのフレームレートは5,000~10,000fps,シャッタースピードは25~100 μsとした.

実験結果および考察
ThO2-W電極, La2O3-W電極の1周期(16.7 ms)中のW蒸気挙動の時間変動において,いずれの電極においても,陽極時にのみWが蒸発していることがわかった.また,ThO2-W, La2O3-W電極の電極蒸発量と金属蒸気面積の結果から,をLa2O3-W電極の方がThO2-W電極よりも2倍程度電極蒸発量が大きくなることがわかった,すなわち微量添加物が,主成分であるW蒸発に大きな影響を及ぼすことが確認された.
W蒸発における添加酸化物の役割について考察する.今回用いた添加酸化物はWよりも高温において蒸気圧が大きい.したがって,陽極時においてW蒸発が開始する前に,既に添加酸化物が蒸発すると予想される.添加酸化物由来の蒸気がアーク中に混入すると,アークの電気伝導度が上昇し,アークが緊縮する.結果,アークから電極への熱流束が大きくなり,電極温度の上昇および電極材料の蒸発量増加につながると考えられる.
添加酸化物種の違いについて比較すると,La2O3の方がThO2よりも蒸気圧が大きい.すなわち,La2O3の方がThO2よりも早いタイミングで蒸発する.したがって,La2O3添加時の方が,より早いタイミングで緊縮状態のアークによる電極加熱が始まるため,結果的に電極蒸発量が増加すると考えられる.

結言
本研究では,高速度カメラとBPFを用いて,放電中の電極から発生する金属蒸気の可視化および電極温度測定を行った.その結果,微量成分である添加酸化物がW蒸発機構に大きな影響を及ぼすことが明らかになった.今後,添加物蒸気の可視化を行うことで,添加物蒸発と電極蒸発の相関性を解明できれば,電極蒸発による電極消耗現象のさらなる解明が見込まれる.

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