緒言
水プラズマは水を原料としてプラズマを発生させる手法である.豊富なH,O,OHラジカルによる高活性およびプラズマの高エンタルピーという特長から廃棄物処理技術への応用が検討されている.これまでの体系的な研究により,水プラズマによる有機物の分解機構が明らかにされている.しかし,水プラズマシステムではアークの変動現象が確認されており,実用化にはその変動現象を充分に把握し制御することが必要となる.よって本研究では,アークの変動および空間特性の解析による水プラズマの安定性の向上を目的とした.目的達成のため,高速度カメラ2台とオシロスコープの同期計測を行い,二方向からアーク挙動の観察を試みた.
実験方法
本実験で使用した水プラズマ装置は大別して,水プラズマトーチ,高速度カメラ二台,オシロスコープ,プラズマ電源,送液ポンプからなる.プラズマ原料である水溶液を吸湿剤で吸い上げ,アーク放電部に直接導入することで安定な水プラズマを発生させている.有機廃棄物のモデル物質としてメタノール水溶液を選定した.メタノール濃度を0~10mol%,アーク電流値を6~9.5 Aの範囲で変化させた.
オシロスコープと同期した二台の高速度カメラを上部と側方に設置し,半径方向および軸方向のアーク挙動を観察した.撮影速度は250000 fpsとし,シャッター速度を1
μsとした.上部カメラの観察視野には,観察対象であるアークに加えてHf陰極が含まれる.Hfからの輻射光を遮断するために,上部カメラレンズにHβ(483
nm)観察用のバンドパスフィルターを装着して,上からアークのみの観察を可能とした.
実験結果
メタノールプラズマの電圧波形ではアークのリストライク現象に起因するのこぎり波形が示されている.リストライク現象とは,電極間の最近接位置で点弧したアークがプラズマガス流により伸長し,陽極ノズル表面で消弧する現象であり,周期的に繰り返される.二方向の同期画像の計測において,上方向からの画像では,リストライク現象に伴うアークループの半径方向への広がりが,横方向からの画像では,軸方向へのアークの伸長が同期して観察された.
アークの投影面積は,観察中にアークが一度でも存在した領域の面積とする.いずれの電流値においても,水よりメタノールの方がアーク領域が大きい.これは,メタノールの方が蒸気圧が大きく,トーチ内圧力が増加することで,放電領域で発生するプラズマガス流量が増加し,ノズル内のガス流速が増加するためである.
結言
高速度カメラ二台を同期させ,アークの変動現象を二方向から観察することで,アーク領域を空間的に把握し,その面積を定量的に評価することに成功した.電流値の増加に伴い,アーク領域も増加する.蒸気圧の違いから水とメタノールのアーク領域はメタノールのほうが大きくなる.以上より,適切なアーク電流で分解を行うことで,アーク領域を制御し,廃棄物処理に応用することが期待できる.
24th International Symposium on Plasma Chemistry (ISPC24) Thermatic Award: Thermal Plasmas | |
「Discharge Characteristics of Water Plasma with Mist Generation」 |