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第9回環境修復と放射性廃棄物に関する国際会議(ICEM03)


会議報告は「Newsletter POWER & ENERGY SYSTEM」No.28にも掲載されています。

会議概要

ICEMは米国機械学会(ASME)が組織する放射性廃棄物管理と環境修復に関する学会であり,2年毎に行われる。ICEMは第1回が香港(1987),第2回は京都(1989),第3回はソウル(1991),第4回はプラハ(1993),第5回はベルリン(1995),第6回はシンガポール(1997),第7回は名古屋(1999),第8回はブリュージュ(2001)で開催されている。

今回はアメリカ機械学会(ASME),英国機械学会(IMech),英国原子力エネルギー学会(BNES),英国原子力学会(INucE)の主催で,第9回環境修復と放射性廃棄物に関する国際会議(ICEM’03)として,2003年9月21日から25日に英国オックスフォードで開催された。オックスフォードはロンドンから北西に約100 kmのところに位置しており,英国最古の学園都市として有名である。日本からオックスフォードへ行くには,ヒースロー空港から直行のバスが頻繁に運行されており,70分で行くことができるので便利である。

会議はオックスフォード市内にあるExamination School(写真1)で開かれた。会議のうち,オープニングのプレナリーセッションだけはオックスフォードのタウンホール(写真2)で行われた。ICEMは各国から集まった放射性廃棄物と環境修復に関する分野の専門家が技術的な観点から発表のみならず,処分場の立地問題,環境負荷の世代間公平といった環境倫理の問題,核不拡散の問題等,様々な観点からの討論を行うために機会を提供している。高レベル放射性廃棄物処分の問題は,原子力発電の是非を巡る論点の一つであり,この問題に対する社会的関心は高い。よってICEMは,放射性廃棄物に関する幅広い分野を様々な立場から議論するためには,開催国の詳しい情報を得るのによい機会であり,非常に重要な会議である。

本報告はICEM’03の会議内容に関するものである。さらに,ICEM'03に参加した後,セラフィールドのBNFLを訪問し,放射性廃棄物処分および再処理施設を見学したので,その見学に関してもあわせて報告する。

会議参加者数および発表者数

参加者が最も多かったのはもちろん開催国の英国からで124人,次に参加者が多いのは,米国(113人),日本(43人),ドイツ(38人),ベルギー(21人)などと続き,合計557人であった。開催国の英国からの参加者の内訳は,BNFLから31人,UKAEAから24人,NIREXから14人であった。ICEM’03の参加者は,通常の科学的な国際会議の参加者の顔ぶれとは少し異なり,大学等の研究機関からの参加者だけではなく,各国の政府関係者,各国際機関の代表者などの参加者も多いことが特徴である。

会議では40ヶ国以上からの発表があり,全部の発表件数は333件であった。会議では各国,各国際機関からデコミッショニング政策,推進状況について多数の発表がなされた。会議の構成は,午前と午後に分かれたテクニカルセッションがメインとなっている。ポスター発表は会議2日目(23日)の午前と会議3日目(24日)の午前の2回に行われた。ポスター発表は昼食のときにも行われ,各自が簡単な昼食を取ってきて,ポスターの近くのテーブルで食事をしながら,ポスター発表に関するディスカッションを行っていた。なお,会議中の昼食はスポンサー数社によって提供された。

ICEM’03では,会議中にはアブストラクト集だけが配布された。CD-ROMによる講演論文集は会議中には配布されず,会議終了後に郵送されるとのことである。アブストラクト集は1/4ページ程度の概要をのみをまとめたものであり,内容を十分に把握できるものではなかった。このような簡単なアブストラクト集のみだけではなく,やはり会議中にはCD−ROMの論文集が必要であると感じた。このCD-ROMの論文集のために発表者は数ヶ月前には原稿を提出しているので,学会の運営方法を工夫すれば,さらに学会の内容が非常に充実したものになると思われる。

会議セッション

ICEM’03では,56のテクニカルセッションが4日間にわたって開催された。今回の会議においては,特別ワークショップと5つのパネルセッションが企画され,それぞれのセッションにおいて活発な議論が交わされた。

プレナリーセッションでは,Patrick Strannardオックスフォード市長,John Harman英国環境庁委員長,John Garrick米国NRC廃棄物委員会委員長,Chris Murray英国Nirex代表取締役,Lynne Smith米国WIPP(Waste Isolation Pilot Plant)ディレクターが,それぞれ廃棄物管理の現状報告や将来予測に関する発表を行った。

ICEM’03が開催される前日の21日には,特別ワークショップとして「サイトクリーンアップと解体におけるリスク」が行われた。

パネルセッションとしては以下の5セッションが開催された。
1. LMU(Liabilities Management Unit)フォーラム
2. NDA(Nuclear Decommissioning Authority)
3. 廃棄物処理プログラムにおいて達成するべき正当性
4. 環境修復において設計による安全性の戦略
5. ウラン採鉱における廃棄物管理の要求と長期管理の役割

また,一般の分野別の発表件数は333件であり,56のテクニカルセッションが行われたが,内容を大きく分けて発表件数を列挙すると,「環境管理/パブリックインボルブメント」35件,「除染技術/デコミッショニング」66件,「低/中レベル放射性廃棄物」70件,「高レベル放射性廃棄物/使用済燃料」60件,「環境修復」56件であった。これらの口頭発表に加えて,ポスター発表が46件あった。

Social Events

ICEM’03で行われたSocial Eventsとしては,会議開催の前夜の21日にWelcoming Receptionが開催された。当初の予定では私はこのパーティにちょうど間にあうようにオックスフォードに到着する予定だったが,私の乗る予定の飛行機が成田で故障して出発が遅れたので,21日のスケジュールは大幅に狂ってしまった。オックスフォードに到着したのは,Welcoming Receptionが終了した後だった。

会議2日目(23日)の夜にはExhibit Receptionが開催された。また会議3日目(24日)の夜にはバンケットが開催されたが,BNFLのセラフィールドを訪問するために,私は24日の夕方の汽車に乗らなくてはいけなかったので,バンケットには参加できなかった。しかし,バンケットよりも非常に私にとって有益だったのでは,23日の夜の中華料理店でのパーティに参加したことであった。このパーティには米国DOEのOffice of Civilian Radioactive Waste Management(OCRWM)のDeputy Directorとして活躍されたBarrett氏,スイスのARIUS AssociationのChapman教授,McCombie社長など,有名な方が参加して,非常に有益なパーティであった。

テクニカルツアー

この国際会議には英国の放射性廃棄物処理関連施設を訪問する3つのテクニカルツアーが準備されていた。3つのテクニカルツアーとも会議終了後の26日に行われ,幅広いデコミッショニングや廃棄物処理に関する分野について一通りの知識を得る機会が与えられた。

テクニカルツアーは英国を代表する放射性廃棄物管理に機関であるUKAEA(英国原子力公社),Nirex,BNFL(英国核燃料公社)に関連する施設を訪問するコースが提供された。

Tour Aは,CalhamのUKAEAとNirex,HarwellのUKAEAを訪問するコースである。CulhamはICEM’03が開催されたオックスフォードから南に10マイル離れたところに位置している。UKAEAの任務は安全確実な方法でこれらの施設の環境を修復することであり,UKAEAはこの修復が環境に対して責任をもち,修復費用に見合う価値を提供し,一般に受け入れられるための業務を行っている。UKAEAが携わっている原子炉システム,燃料・再処理技術,核融合などの原子力の研究全般を推進するための施設は,Culham,Dounreay,Harwell,Windscale,Winfrithなどにある。今回のテクニカルツアーは,このうちCulhamとHarwellを訪問するものである。Calhumでの訪問先はUKAEAのCalham Fusion Facilityであり,ここにはEFDA-JETがある。1978年にJETが誘致されてから,Calhumは英国における核融合研究の中心地となっている。次の訪問先はNirexのPackaging and Transport Culham Test Facilityである。このあとにはHarwellを訪問する。ここはUKAEAの本社所在地であり,UKAEAが所有する8つうち最大のサイトである。このサイトには,廃炉と放射線化学研究所,放射性廃棄物貯蔵施設がある。今回のツアーでは,現在デコミッショニングが行われているGraphite Low Energy Experimental Pile (GLEEP)を訪問する。

Tour Bは, SellafieldのBNFL,WindscaleのUKAEAを訪問するコースである。ここはオックスフォードからは離れた湖水地方に位置しているので,1泊2日のツアーであった。見学は,BNFLの再処理工場であるTHORP(THermal Oxide Reprocessing Plant),UKAEAのデコミッショニングが行われているProject WAGR,最後に低レベル固体廃棄物のDrigg処分場を訪問する。

Tour Cは,Berkely発電所を見学するコースである。Berkelyはオックスフォードから60マイル離れたところに位置している。この発電所はデコミッショニングが行われている。この発電所は,1962年に運転開始,1986年に経済性を理由に停止され,1992年までに燃料の搬出作業が終了した。

国際会議ICEM’03の発表について

発表件数はポスター発表を含めて333件であった。政治政策的な分野から,工学的な分野まで広い範囲にわたって,経験や計画等実務的な報告が多い。また,国の政策,基準等の紹介が豊富であることも一つの特徴である。ICEM’03では各国,各国際機関からデコミッショニング政策,推進状況について多数の発表がなされたが,その中で,まず地層処分に関する3件の報告を特に取り上げたい。

原子力発電環境整備機構(NUMO)の北山氏は,「NUMO’s Open Solicitation of Volunteer Municipalities for A Potential Disposal Site」として,高レベル放射性廃棄物の概要調査地区(処分候補地)の調査地域を選定するための公募方式に関する報告を行った。日本では,2000年6月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が公布され,高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた枠組みが整備された。これを受けて2002年10月には通商産業大臣(現,経済産業大臣)の認可を取得して地層処分事業の実施主体としてNUMOが設立された。このNUMOは2002年12月19日には,全国の市町村を対象に概要調査地区の公募を開始した。これは,欧米各国に続いて日本が地層処分場のサイト選定作業を開始したことを示したこととなり,日本の原子力開発にとっては大きな意味合いをもつ。発表後には,公募状況に関する質問などがあり,日本の地層処分の概要調査地区選定方法に対して,欧米各国が強い興味を持っていることが感じられた。処分場を探すという極めて困難な作業であり,日本ではまだ公募が始まったばかりである。今後は現在進められている海外の処分場開発の知見を生かしていくことが重要である。

Arius(Association for Regional and International Underground Storage)のCharles McCombe社長は,「Progress with Multinational Sorage and Dsoposal of HLW, SF and Transuranics」として,Ariusの特徴,構成,状況について報告した。EUやアジアには国際的あるいは地域的なプロジェクトを推進するための機関はなく,今後はPrivate Co-operation InitiativesとしてAriusの活動が重要となってくると述べていた。

カナダ天然資源省(NRCan)のPeter Brown氏は「Canada’s New Nuclear Waste Act」として,核燃料廃棄物管理機関(NWMO)に関する報告を行った。カナダでは,2002年11月15日に「核燃料廃棄物の長期管理に関する法律」(略称:核燃料廃棄物法)が発効された。さらに,核燃料廃棄物法に基づく要求事項を実施するため,共同で処分の実施主体となるNWMOを設立した。核燃料廃棄物法に基づく要求事項に関しては,連邦政府がNWMO,原子力事業者,カナダ原子力公社(AECL)の監督を行うこととされている。このNWMOの設立目的は,核燃料の長期管理方法を提案するとともに,総督が選定した管理方法を実施することである。

次に,デコミッショニングに関する報告として,以下の2件の報告を紹介する。

米国原子力規制委員会(NRC)のClaudia Craig氏は「Status of NRC’s Decommissioning Program」として,米国のデコミッショニング政策や推進状況に関して報告した。さらに,環境保護庁(EPA)とNRCとの間の合意覚書に関しても言及された。この合意覚書では,汚染サイトの廃棄措置および除染に関するものであり,NRC認可サイトの廃棄措置と除染およびその責務の行使法に関する両者の関係を規定したものである。

フランス電力公社(EDF)のJean-Jacques Grenouillet氏は「EDF Decommissioning Programme? A Global Commitment To A Sustainable Development」として,フランスのデコミッショニングに関して報告した。フランスでは一次系などの解体撤去を行い,放射能の高い炉心部のみ遮へい隔離し,この状態で約40から50年間放射能の減衰を待ち,最終的にすべてを解体撤去する方法を採用している。EDFは,閉鎖した発電所に関する情報がこのような長期間において失われるリスクを考慮すべきであるとの見解に基づき,解体プログラムを早めることとした。今回の発表では,CHINONのGCRと,Brennilsの重水炉のデコミッショニングの方法や状況についての報告であった。

ICEM’03では,各国,各国際機関からデコミッショニング政策,推進状況に関する報告が多いが,科学的な研究発表にも興味あるものが多かった。ソイルサイエンス総合研究所,東京大学名誉教授の中野政詩先生らのグループは,EXAFSを用いたCsの陽イオン吸着サイトに関する研究発表を行った。放射性廃棄物地層処分の安全評価を行う上で,粘土や土壌中での物質の収着挙動や移行挙動は極めて重要な研究課題である。ベントナイトは,主にモンモリロナイトからなる粘土であるが,イオン吸着性の高さや透水性の低さから高レベル原子力廃棄物処分をはじめとする廃棄物閉じ込めのための人工バリア材として使われる。この報告は,バリア材としてのベントナイトの振る舞いを明らかにするものとしてモンモリロナイトの水―鉱物界面におけるCs の吸着部位を把握するためにおこなった透過法によるCsのK端吸収 EXAFSの解析結果について述べたものである。

オックスフォードの街

ICEM’03が開催されたオックスフォードの街は,英国最古の学園都市ならではの雰囲気がある。オックスフォードの街並みは,その長い歴史を感じさせる伝統や文化を色濃く映し出すと同時に,名門オックスフォード大学の学生たちの若さや活気あふれる街でもある。学者たちの集会場として始まったオックスフォードの歴史は,12世紀に遡り,今も30を超えるカレッジ(The University of Oxford)が学問の道を究めている。小さな街なので,歩いて回るのが一番であり,大部分のカレッジを歩いてめぐることができる。

英国初の円形図書館ラドクリフ・カメラは,オックスフォードの代表的な円形建物であり,今回のICEM’03のホームページやパンフレットの表紙に使われている。オックスフォードでは非常に有名な建物である。カメラといっても写真機のことではない。chamber room(図書館)のことである。英国初の円形の図書館として1749年に完成し,1860年からはボドリアン図書館の読書室として使用されているが,内部は非公開である。

ボドリアン図書館は,1602年にトーマス・ボードリアン卿によって作られた図書館で,建物は1488年のものである。オックスフォード大学のメイン図書館である。日本の国会図書館のように、この国で出版された本すべてが寄贈される版権図書館でもある。

マートン・カレッジは皇太子殿下が学んだカレッジである。オックスフォードで一番古く1264年に創立,1274年にここに移ってきた。