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Microsoft Innovation Award 2007 優秀賞

「大気圧プラズマによる廃棄物処理システム」

日経BPネットに掲載された記事もご覧ください。



 「イノベーション・ジャパン2007-大学見本市」は全国の優れた大学の知財を広く産業界に紹介することを目的とした産学マッチングイベントとして、2007年9月12日(水)〜14日(金)に東京国際フォーラムで開催された。大学の研究成果を一同に集め、産業界に広く紹介することで、産学のマッチングを促進し、研究成果の社会還元、新産業創出へ寄与するために、新エネルギー・産業技術総合開発機構、科学技術振興機構が主催し、文部科学省、経済産業省、内閣府、日経BP社の共催で開催され、今年で4回目の開催となった。大学の最先端技術分野の知財は「ナノテク ・材料」「バイオ ・アグリ」「医療 ・健康」「IT」「環境」「新エネルギー ・省エネルギー」「ものづくり」の7分野にわかれて、合計257の研究成果が展示され、188テーマの新技術説明会が行われた。展示の規模は過去最大規模の開催となり、来場者合計数も44,160人と過去最大となった。

「Microsoft Innovation Award 2007」は、研究・教育機関、起業家・ベンチャー企業のアイデアから商業ベース化の実現、グローバルビジネス展開への支援を目的に、優秀な研究やソリューションに対して表彰されるが、今回は幸いにも環境部門として出展した筆者の「大気圧プラズマによる廃棄物処理システム」がMicrosoft Innovation Award 2007 優秀賞を受賞することができた。本稿では展示会や受賞式の様子とともに、受賞対象の技術の内容を紹介する。

今回の受賞対象となったテーマは2つの研究成果から成る。ひとつは水プラズマによるフロンやハロンの分解システムであり、もうひとつは非平衡プラズマによるリサイクルプロセスである。大気圧プラズマによる廃棄物処理の概念を図1に示す。

前者の水プラズマは、プラズマガスとして水蒸気のみを用いた直流放電プラズマであり、電極を熱から保護するための冷却水を直接放電領域に吹き込み、それをプラズマガスとして使用するものである。この方式によって、プラズマガス用のボンベが不要となり、冷却水による熱損失がなくなる。図2に示すように、この水プラズマシステムを用いて代替フロンHFC-134aの分解処理を行うと、HFC-134aは直ちに分解され、下流では副生成物での再結合反応を抑制することができる(日経産業新聞 2005.4.22、2007.9.14、日刊工業新聞 2005.10.7)。

また、この水プラズマシステムをPCBや硫酸ピッチなどの廃棄物を無害化することを目的として、車載型の処理装置を開発した。10トントラックにプラズマ発生装置や排気処理装置、発電機などを搭載することにより、廃棄物の保管場所まで移動することで廃棄物を無害化できる。PCBや硫酸ピッチなどは、保管場所から動かすことが難しいので、この移動式処理装置はきわめて有用であると期待されている(環境新聞 2006.12.20、循環経済新聞 2007.1.22、日刊工業新聞 2007.2.15)。

もうひとつの大気圧プラズマによる廃棄物処理システムは、イオンや中性粒子の温度は低く、電子温度が高い非平衡プラズマによるリサイクルプロセスである。廃プラスチックの処理はマテリアルリサイクルへの移行が望まれているが、廃プラスチックに混入した異物が再生プラスチックの品質に大きな影響を与えるため、廃プラスチックを効率良く分別、洗浄する技術が重要になる。従来の洗浄プロセスでは廃液処理や乾燥という行程が必要なので、環境に対する負担が大きいという問題がある。そこで、新しいリサイクルプロセス(図3)として、大気圧非平衡プラズマを廃プラスチックの洗浄プロセスに用いる方法を開発した(日経産業新聞 2005.7.22)。

また、液晶テレビや携帯電話などの液晶ディスプレイ中に含まれるITOとして用いられているインジウムを非平衡プラズマで回収する方法も開発した。インジウムは希少な金属であり、将来的に安定した生産への不安から価格の高騰が進んでいるので、廃液晶パネルからインジウムを回収する技術が求められている。廃液の処理を必要としない大気圧非平衡プラズマを用いたインジウムの回収技術に対する期待は大きい(日本経済新聞2007.10.12、日経産業新聞 2007.9.19)。

さて、受賞式は2日目の午後に行われたが、実は筆者は受賞式に出席することができず(理由は後述)、水プラズマの実験を担当している学生(修士課程の西岡君)が代理で出席した。イノベーション ・ジャパンに出展された大学研究室のなかから7分野で各1研究成果が前もって部門賞として選ばれ、そのなかから受賞式の当日に優秀賞とマイクロソフト特別賞が発表されることになっていた。筆者も学生も優秀賞を頂けるとは思っていなかったので、優秀賞の発表には驚きつつも大変なことになってしまったと慌てた。代理の学生は壇上に上がってからコメントを求められ、20社程度のプレスの方によって「こちらに笑顔をお願いします」などといったような普段TVで見るような写真撮影もあり、さらに受賞式の後は研究展示ブースの前でビデオ撮影も行われた。学生にとってはかなりの負担だったと思うが、貴重な体験であったことは間違いない。

今回の受賞対象となった大気圧プラズマを利用した廃棄物処理の成果は多数の新聞や雑誌で報道されているためか、研究展示ブース(図4)には多数の企業、大学、官公庁の方々に来ていただいた。特に企業からは研究部門の方だけでなく、営業部門の方もとぎれることはなかった。他のブースよりも当研究室のブースに来てくださる方は大変に多く、展示説明を担当した2人の学生は大変だったと思う。プラズマによる廃棄物処理方法のメリットだけではなく、コストや環境負荷などデメリットについての質問もあり、学会のポスター発表よりも学生には勉強になったようである。

今回のイノベーション・ジャパン優秀賞の受賞式に出席できなかった理由は、全くの偶然に同時刻に札幌での化学工学会で開催されたOutstanding Paper Award of Journal of Chemical Engineering of Japanの受賞式と重なってしまったからである。こちらの受賞式は4月にはすでに決まっており、受賞講演もすでにプログラムに掲載され、仕方なくイノベーション・ジャパンの受賞式には学生に代理出席をお願いすることになった。今回のイノベーション・ジャパン優秀賞の対象となった研究は廃棄物処理といった産業応用を目指した研究であり、一方、化学工学会から頂いたOutstanding Paper Awardは熱プラズマの数値解析といった基礎的な分野に対するものである。奇しくも同時刻に異なる研究テーマで、基礎と応用の両部門で賞を頂くことができたのは筆者としては大変に嬉しく、また誇れることであると思っている。このような賞を頂くことができたことは自分一人の力で成し得たものではなく、実学と基礎の両方に強い本学からの様々なバックアップがあった故である。特にすずかけ台キャンパスに異動してからは素晴らしい研究環境に恵まれたことが今回の受賞に結びついたと思う。

最後に、本研究においてお世話になった方々にお礼を述べたいと思います。本研究成果の特許出願でお世話になった理工学振興会の愛氏、イノベーション・ジャパンへの出展に際してお世話になった産学連携推進本部や研究協力部産学連携課産学連携企画係の皆様、新技術展示コーナーでお世話になったフロンティア創造共同研究センターの学術・研究振興係の皆様、非平衡プラズマの共同研究を通して貴重なご意見をいただいたシャープ株式会社環境安全本部の隅田部長と内海氏、化学環境学専攻の中野教授、そして、本研究テーマを担当し、展示の説明を手伝っていただいた修士課程の齊藤君と西岡君に感謝いたします。とくに西岡君には受賞式に代理で出席していただき、同君に心から感謝したいと思います。

こちらもご覧ください。

「大気圧プラズマによる廃棄物処理システム」の展示の様子