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論文題目「高周波熱プラズマを用いた機能性ナノ粒子合成における窒化プロセスの制御」

田上優太

1.緒言
 高周波熱プラズマは高温かつ高化学活性であり,他の熱プラズマと比較して被処理物質の滞留時間が長いという特長を有する.また,プラズマ尾炎部での超急冷が可能であるため,従来では合成しにくい形態,結晶構造,化学組成のナノ材料の合成を得意とする.そのため,新規のナノ材料の創製プロセスとして注目されている.さらに,反応雰囲気(不活性,酸化,窒化など)を制御することができ,原料(気体,液体,固体,サスペンションなど)を自由に選択できる点も特長としてあげられる.本研究では窒化雰囲気に着目した.
 窒化物はエレクトロニクス分野などで応用されており,さらに,ナノ粒子化することで新たな機能性の発現や幅広い分野での応用が期待される.Ar-N2雰囲気の高周波熱プラズマを用いた窒化物ナノ粒子合成も報告されている.また,N源としてNH3ガスに着目し,窒化物ナノ粒子を合成した報告例もある.しかし,これらの報告例は一部金属種に限られており,窒化プロセスの違いを体系的に評価している報告例はない.そこで本研究では,Ta, Nb, Zrに対して,Nラジカル,N2分子,NHxラジカルによる窒化反応をそれぞれ評価することで窒化プロセスが生成物に及ぼす影響を検討した.

2.実験方法
 実験装置は大別して,プラズマトーチ,反応チャンバー,回収フィルターの3つで構成される.キャリアガスと共に供給された原料粉体はプラズマトーチ内で瞬時に蒸発し,反応チャンバーにおいて均一核生成,不均一凝縮および凝集を経てナノ粒子となる.生成されたナノ粒子は回収フィルターに集積し,回収される.
 本研究では,金属窒化物ナノ粒子の合成を試み,同時にN源の添加手法の違いが生成物に及ぼす影響を検討した.原料粉体としてTa (45 μm)を用いた.実験条件としては,周波数4MHz,投入電力20 kW,雰囲気圧力を大気圧と固定した.インナーガスとしてAr (5.0 L/min)を流した.原料粉体の供給のためにキャリアガス(Ar: 3.0 L/min)を用い,Taは600 mg/min,NbおよびZrNは300 mg/minの供給速度でプラズマ中に供給した.
 N源の添加手法による影響を以下の3条件により比較した.(A)プラズマ形成ガスとしてN2 (5 L/min)をAr (55 L/min)との混合ガスとして添加した条件.(B)急冷ガスとしてN2 を10 L/min添加した条件.(C)急冷ガスとしてNH3 (5 L/min)をAr (5 L/min)との混合ガスとして添加した条件.なお,(B)(C)の条件においては,シースガスとしてArを60 L/min流した.合成したナノ粒子は粉末X線回折(XRD)を用いて生成物を同定し,透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて粒子形態と粒径分布を評価した.エネルギー分散分光法(STEM-EDS)を用いて元素マッピングを行い,単一粒子より抽出したEDSスペクトルにより窒化割合の評価を行った.

3.実験結果
 Ta-N系におけるXRD分析結果において窒化タンタルの生成が確認された.いずれの条件においてもTa2O5のピークが確認されたが,これはNと反応しなかったTaが合成プロセス後に酸化したことによる.主生成物は,(A)および(B)の条件ではTa2N,(C)の条件ではTaNであった.また,窒化タンタルの生成割合は,(A) 0.77,(B) 0.55,(C) 0.93であった.これは窒化プロセスの違いに起因する.
 N2分子の解離エネルギーは約9.1 eVと大きいため,Nラジカルへの解離温度は約7000 Kである.したがって,(A)のプラズマ形成ガスとしてN2ガスを添加した場合は10,000 Kを超えるプラズマの高温域でN2分子は解離し,Nラジカルとなる.高周波熱プラズマは急激な温度勾配を要しているため,Taの反応温度域でもNラジカルが多数存在していると考える.後述するGibbsの自由エネルギーより,TaはN2分子とは反応性が低く,Nラジカルとは反応性が高い.したがって,(A)の 条件では高い割合で窒化タンタルが生成した.(B)の急冷ガスとしてN2ガスを添加した場合はプラズマの高温域をN2ガスが通過せず,Nラジカルにはほとんど解離しないため,窒化タンタルの生成割合が低い.
 NH3を急冷ガスとして添加した場合でもTaの反応温度域ではNHxラジカルとして多数存在していることがわかっている.Gibbsの自由エネルギーよりTaはNHxラジカルとの反応性が高い.したがって,(C)の条件では高い割合で窒化タンタルが生成した.
 (A)および(C)の条件の元素マッピング結果では,いずれの条件においてもほとんどの粒子上にTaとNのマッピングが重なっていた.これは生成物が窒化タンタルであることを示している.また,EDSスペクトルの強度は元素の含有量に依存することから,[N/O]をNとOの強度比として定義する.以下に,それぞれの条件において無作為に選定した複数の粒子より抽出した[N/O]値の平均を記す.(A)の条件では[N/O]値は0.65であった.(C)の条件では[N/O]値は1.61であった.これは,(C)の条件では主生成物がTa2NではなくTaNであり,また,(A)の条件よりも窒化タンタルの生成割合が大きいという結果と一致する.
 ここまでTa-N系について述べたが,窒化プロセスの違いを体系的に評価するためにはTaと他の金属種の挙動を比較検討する必要がある.それぞれの金属種の核生成温度におけるNラジカル,N2分子,NHラジカルとの反応による窒化物の生成ΔGの値と,生成物中の窒化物の生成割合の関係について考察した.なお,核生成温度の算出にはGirshickらが提唱した均一核生成速度式を用いた.いずれの金属種においてもN2分子との反応において最も低い窒化物の生成割合を示した.これは,前述した理由の通りである. また,いずれの金属種においてもNHラジカルとの反応において最も高い窒化物の生成割合を示した.前述したように,これは反応温度域においてNH3分子がNHxラジカルとして十分に存在していること,および金属種とNHxラジカルの反応性が高いことによる.したがって,NH3は窒化物ナノ粒子合成におけるN源として有効である.

4.結言
 高周波熱プラズマを用いて窒化タンタルナノ粒子,窒化ニオブナノ粒子,および窒化ジルコニウムナノ粒子を合成することに成功した.N源の添加手法が生成物に及ぼす影響を明らかにすることで急冷ガスとしてNH3ガスを添加した場合が最も優位に窒化反応が進行することを見出した.以上より,高周波熱プラズマを用いた新規の窒化物ナノ粒子合成の実現が期待できる.



化学工学部門2020年修士中間発表優秀発表賞(2020年2月)
誘導結合型熱プラズマを用いた重金属ホウ化物ナノ粒子の合成

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