| ホーム | 渡辺教授 | 研究 | 業績 | 装置 | メンバー | 卒業生 | 学生業績 |
| 講義 | 学会報告 | 入学希望者 | トピックス | サイトマップ |

論文題目「反応非平衡モデルを用いた高周波熱プラズマの数値解析」

田島 司

緒言
熱プラズマは,高温,高化学活性,高急冷速度を持つことに加え,反応雰囲気を自由に選択できるという特長があるため,様々な材料プロセッシングへの応用が期待されている.熱プラズマの一種である高周波熱プラズマは,高周波電磁場により誘導的に熱プラズマを発生させる手法である.無電極放電であることから電極の蒸発による目的生成物への不純物混入がなく,高純度の材料合成が可能である.そのため,産業界の材料合成分野における応用が特に期待されている.しかし,高周波熱プラズマ独自のプロセスの構築に必要な,熱プラズマ中の物理・化学プロセスの理解は未だ不十分である.これは,熱プラズマが高温であり,急激な温度・速度勾配を持っているために,プラズマ中の現象を計測によって把握することが困難なためである.そこで,シミュレーションによりプラズマの特性を数値的に解析することが重要となる.

熱プラズマの数値解析において,従来は局所熱平衡(LTE)モデルを仮定することが多かった.LTEを仮定すると,温度が同じならばどこでも組成が等しいとすることができ,輸送係数や熱力学特性を温度と圧力のみの関数として計算できるためである.しかし,プラズマによる材料プロセッシングのシミュレーションを正確に行うためには,プラズマ中の化学的非平衡性を把握,制御することが重要である.そこで,本研究では反応非平衡(CNE)モデルによるアルゴン-酸素高周波熱プラズマの熱流体解析を行い,化学的非平衡性が高周波熱プラズマに及ぼす影響を解明することを目的とした.

数値解析法
高周波熱プラズマの温度や速度,濃度といった特性は基礎方程式を連立して解くことにより求められる.大気圧下では熱プラズマは連続流体とみなせるため,基礎方程式として流体力学の保存方程式を用いることができる.本研究では組成比0.963:0.037のAr-O2プラズマの流体計算を行った.計算条件として,高周波熱プラズマ装置への入力電力を10 kW,入力周波数を4 MHzに設定した.
解析するモデルは反応非平衡1温度モデルで,2次元電磁場を考慮している.基礎方程式として連続の式,ナヴィエストークス方程式,マクスウェル方程式,エネルギー保存式,成分保存式の5つの方程式を連立させて解いた.また,基礎方程式をたてるための仮定として以下のものを置いた.
(a)計算対象であるプラズマトーチは軸対称の円筒形であり,外周にコイルが3回巻かれている
(b)プラズマ流は定常状態で層流である
(c)プラズマは光学的に薄いとみなせる
(d)粘性散逸は無視する
(e)変位電流は無視する
(f)化学種はAr,Ar+,O2,O,O+の6種類とする
数値計算アルゴリズムとしてはSIMPLER法を用いた.これはPatankerによって考案された,SIMPLE法の収束性を改善するために開発されたアルゴリズムである.また熱プラズマの輸送係数については,Chapman-Enskog法を用いて得られた衝突積分を温度の関数として定式化した上で計算を行った.熱伝導度は4000 K付近で熱伝導度がピークを持っているが,これは酸素分子の解離反応が起こる温度領域において,反応エネルギーが拡散によって運ばれるために,見かけの熱伝導度が大きくなることで生じるものである.同様に,8000 K付近からは電離が進行するため,電離反応のエネルギーによって見かけの熱伝導度が上昇している.

解析結果
温度,ジュール加熱ともに軸方向に30~50 mm,半径方向に10~15 mmの位置で最大値を取る.この位置で最大値を取る理由は以下のように説明できる.熱プラズマは導体であるため,入射した交流電磁場は表面で大きく,中心に向かうほど減衰していくという表皮効果が存在する.そのため電場はトーチ壁で最大値をとるが,トーチ壁は水冷されているため壁近傍では温度が低く,電気伝導度が小さいためジュール加熱も小さくなる.したがって,ジュール加熱は電気伝導度の減少と電場の上昇が釣り合う点で最大値を取り,温度とジュール加熱は壁から少し離れた位置で最大となる.
流線では,トーチ上部で渦が発生していることが示されているが,これはプラズマが電磁場により生じたトーチ中心向きのローレンツ力を受けてトーチ中心に流れ,その一部が逆流するためである.

結言
反応非平衡モデルを用いてAr-O2プラズマの数値解析を行った.コイル領域でのジュール加熱による温度の上昇と,プラズマに加わるローレンツ力による渦の発生という高周波熱プラズマトーチに特有の現象が,数値解析により示された.

報告書