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論文題目「ミスト量調節型水プラズマにおけるアーク放電現象」

村上 寛


1.諸言
 熱プラズマによる廃棄物処理は,その高温という特徴を利用し多方面で実現している.しかし熱プラズマ装置の欠点として,電極の消耗を防ぐための冷却水の使用によりエネルギー効率が低いこと,またプラズマ発生装置とは別にプラズマガス供給設備が必要になることがあげられる.そこで本研究では冷却水を直接プラズマ原料として用いる水プラズマに着目した.これによりガス供給と冷却を同時に行うことができ,従来の熱プラズマ発生装置と比較し,高いエネルギー効率とコンパクトな装置設計が可能になった.さらに原料の水に由来する豊富なH,O,OHラジカルの存在による高活性,およびプラズマの持つ高エンタルピーという特長から,水プラズマの高化学活性を活用する新しい廃棄物処理プロセスの構築が期待されている.
 既往の研究では,小型水プラズマトーチを用いて内部に設置した吸湿材による毛細管現象を利用して,原料溶液を放電領域に供給していた.しかしこの方式は原料供給量を制御できず,プラズマの安定性に課題があった.そこで,原料溶液をミスト化し供給する新規なプラズマ発生手法を開発し,ミスト発生量を変化させることで原料供給量の制御を可能にした.
  水プラズマシステムでは,リストライクモードと呼ばれる特徴的なアーク変動が顕著に確認されており,この変動現象を十分に把握し制御することが物質処理において必要不可欠である.しかし,本研究で用いるミスト供給式の水プラズマは新規なプラズマ発生手法であるため,アーク変動の観察は十分に行われていない.そこで本研究ではミスト量調節型水プラズマにおける放電現象の解明を目的とし,高速度カメラを用いたアークの変動現象の観察および温度計測を行った.

2.実験方法
 本実験で用いたプラズマトーチでは,トーチ底部に2.5MHzで振動する超音波振動子を4つ設置し,原料溶液をミスト化させ直接放電領域に導入した.ノズル型陽極と先端にハフニウムを埋め込んだ銅陰極棒から構成され,この電極間に直流電圧を印加し,直流アークを維持させることで水プラズマを発生させている.
 本研究では,アーク変動の観察には高速度カメラを2台,アーク温度の可視化には高速度カメラを1台用いて観察を行った.アーク変動の観察に用いた実験装置の概略図をFig. 2に示す.圧力は大気圧とし,プラズマ原料は水とエタノール水溶液,そして工業プロセスにて溶媒として用いられるN,Nジメチルホルムアミド(DMF)水溶液,ピリジン水溶液を選定した.実験条件としてアーク電流値を6.0 Aとし,水とエタノール水溶液では発生させるミスト量によって原料供給量を変化させた.
 本実験で使用した温度計測システムでは,特定波長のみを透過させるバンドパスフィルター(BPF)光学系を組み合わせた高速度カメラを用いて観察を行った.H原子由来の線スペクトルを観察するため,656±5 nmと486±5 nmを透過する2種のBPFを選定し,それぞれの発光強度比を利用するボルツマンプロット法により温度算出を行った.

3. 結果
 プラズマ原料に5mol%エタノール水溶液を用い,原料供給量が60 mg/sの時の電圧波形,および高速度カメラの画像を元に解析したアーク温度分布では,すべての条件において電圧波形はのこぎり型を示し,それに対応して伸長し消弧するアークの様子が確認された.これはアークのリストライク現象に起因するものである.この伸長現象はノズル内のプラズマガス流によって生じる.またアーク中心部の温度はいずれの条件においても,7,000 K程度であった. F
 原料供給量を変化させたときのリストライク現象に由来するアークの平均周波数では,いずれの溶液においても,原料供給量の増加にともない周波数は増加した.これは,放電領域で発生するプラズマガスが増加し,ノズル内のガス流速が増加することでアークの1回のリストライクに要する時間が減少したためである.
 5mol%エタノール水溶液を用いたときの各原料供給量におけるアークの方向別の存在確率分布図を,アークが約150回リストライクを繰り返す間のカメラ画像から算出した.原料供給量の増加にともない,アーク存在領域が軸方向,半径方向ともに増加した.これは原料供給量の増加によってノズル内のガス流速が増加したためである.
 本システムにおける原料供給プロセスはミストと蒸発の2通りが存在する.ガス流量に影響する因子として,ミスト量は溶液の表面張力が,蒸発は溶液の蒸気圧が考えられる.本研究で用いた水と3種の溶液の蒸気圧と,それぞれ溶液濃度を2mol%としたときのアークの存在面積のいて,原料溶液の蒸気圧が高いほどアークの存在面積が増加した.したがって溶液ごとの比較では,より蒸気圧による影響が支配的であった.

4. 結言
 本研究では,トーチ底部に設置した超音波振動子を用いて,原料溶液をミスト化しプラズマを発生させるミスト量調節型水プラズマを開発し,発生させるミスト量を変化させることで原料供給量を制御することに成功した.またミスト供給型システムにおけるアーク変動現象及びアーク温度の可視化に成功した.以上より,本システムは水プラズマによる廃棄物分解および合成ガス生成システムの実現を可能にすることが期待される.





学士論文の内容は2019年6月11日にテレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」にてテレビ放映されました。  詳細はこちら


プラズマ・核融合学会 九州支部第25回支部大会 講演奨励賞 (2022年3月)
スト量調節型水プラズマにおけるアーク温度変動


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