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論文題目「水プラズマにおける放電現象」

松尾剛志

緒言
熱プラズマによる廃棄物処理は多方面で実現しているが,そのプロセスは熱プラズマの高温という特長を利用している場合がほとんどである.プラズマ源として水を用いるプラズマにはH,O,OHラジカルが豊富に含まれていることから,水プラズマの高化学活性という特長を活用する新しい廃棄物処理プロセスの構築が期待されている.これまでの体系的な研究により,水プラズマによる有機物の分解機構が明らかにされている.熱プラズマによる有機物の分解は熱分解により進行し,気体,液体,固体生成物へと高速変換される.特に,生成気体は主にH2,CO,CO2から構成されていることより,合成ガスとしての利用も期待されている.
水プラズマ装置では,陽極が装置内部にある非移送型プラズマトーチが用いられている.非移送型プラズマトーチでは,アークの変動現象が確認されており,その変動現象を充分に把握してプロセスに用いることが必要となる.水プラズマの例ではないが,非移送型直流アークに外部磁場を印加した例がある[4].ローレンツ力によりアークを回転運動させ,高温領域を通過する被処理物質を増加させ,被処理物質であるCF4の分解率を約45%から約60%まで向上させることに成功している.このように,アーク変動が被処理物質に与える影響は大きく,水プラズマを用いた効率的な廃棄物処理プロセスの構築には,アーク変動が廃棄物分解に与える影響を理解することが重要である.しかし,水プラズマの放電現象に関する研究は殆どなされていない.
本研究では,水プラズマにおける放電現象の解明を目的とし,高速度カメラを用いたアークの変動現象の観察および温度計測を行った.更に,分解実験を行うことで分解効率の向上について検討した.

実験方法
水プラズマ装置では吸湿材を使用することでプラズマ源となる処理液体を放電部に導入している.アークの熱を利用し電極との熱交換により,電極の冷却と同時に廃棄物が混在する水を蒸発させ,プラズマガスとして供給している.被処理物質はプラズマガスとしてアークの存在する放電領域およびプラズマジェットを通過することで分解される.
圧力は大気圧とし,プラズマ源には水と比較し供給速度が小さいグルコース水溶液と供給速度が大きいメタノール水溶液を選定した.また,有機廃棄物のモデル物質としてエタノール水溶液を選定した.原料濃度は1.0〜10mol%とした.操作条件は,アーク電流値を7.5 Aとし,陽極ノズルスロートの長さを4.0〜9.0 mmの範囲で変化させて実験を行った.陽極ノズルスロートの長さはFig. 1中に赤色で示す範囲を指しており,陽極点が移動可能なノズルの最狭部の長さを表している.
水プラズマトーチの上部に設置した高速度カメラを用いてアークの温度計測およびアークの変動現象の観察を試みた.温度計測には,高速度カメラにバンドパスフィルター光学系を組み合わせた計測システムを用いて,水素原子からの線スペクトルによるボルツマンプロット法に基づき水素原子の励起温度を評価した.バンドパスフィルター波長は486 nmおよび656 nmを選定した.温度計測のとき,撮影速度は2.0×105 s-1,シャッター速度を5 μsとし,変動現象の観察のとき,撮影速度は4.2×105 s-1,シャッター速度を1 μsとした.また,分解実験において気体の分析にはガスクロマトグラフ,液体の分析には全有機炭素計を使用した.

実験結果
水をプラズマ源とし,アーク電流値が7.5 A時のアーク電圧波形では,のこぎり波形が確認でき,その周期は25.1 μs (39.8kHz)であった.この波形は,アークのリストライク現象に起因する.最低電圧時に電極間の最も近い位置でアークが発生する.その後,ガス流の影響を受け陽極出口へと押し出されることでアークが伸長し,アーク電圧が上昇する.電圧値がある一定以上となったところで,アーク消弧と,最近接距離間での再点弧が生じる.
アーク電流値を7.5 Aとし,プラズマ源に10mol%メタノール水溶液,水,1mol%グルコース水溶液を使用したときのアークの温度分布のスナップショットにおいて,プラズマ源に水を使用した場合ではアークの最高温度は9500 K程度であるが,メタノール水溶液,グルコース水溶液を使用した場合は約8500 K程度まで低下することが確認された.これは,プラズマ源に有機溶媒を使用することにより有機物の分解にエネルギーが使用されるためだと考えられる.また,グルコース水溶液,水,メタノール水溶液の順にアークの伸長が増加し,アークは陽極ノズル内壁より外側に広がっている様子が確認された.これは,供給速度の増加に伴い,プラズマガス流量が増加し,アークを押し出す力が増加したためだと考えられる.陽極ノズル内壁より半径方向外側に広がったアークは分解に寄与することができない.そこで,陽極ノズルスロート長さを伸長することでアークの半径方向への広がりの抑制を試みた.
存在確率分布図を,2.38 ms間(約120周期)の高速度カメラ画像を画像解析することで算出した.高速度カメラ画像および存在確率分布図より,ノズルスロートの長さが7 mm以上の陽極を使用すると,2.38 ms間(約120周期)において,アークの半径方向への広がりは確認されなかった.したがって,陽極ノズルスロートの長さを伸長することでアークの半径方向への広がりを抑制できたと考えられる.
陽極ノズルスロート長さを変化させて,エタノール水溶液を分解したときの物質収支を求めた.エタノール水溶液は完全に分解されると気体成分に変換され,液体,固体成分は副生成物となる.供給速度,液体および気体の生成速度は増加し,固体の生成速度は減少することがわかった.これは,アークの半径方向への広がりが抑制され,高温領域が増加し,分解が促進され,固体成分が気体成分に変換されたためだと考えられる.

結言
本研究では,高速度カメラを用いたアークの変動現象の観察および温度計測を行い,水プラズマの放電現象の解明を試みた.プラズマ源に水を用いたとき,アークの最高温度は9500 K程度であり,グルコース水溶液,メタノール水溶液を用いた場合も8000 K以上の高温を有しており,廃棄物分解には十分な温度を有していることがわかった.また,ノズルスロート長さが7 mm以上の陽極を使用するとアーク変動をノズル内に抑制することができ,アークの持つエネルギーを効率的に廃棄物分解に活用し,副生成物である固体成分の生成量が減少することがわかった.以上より,水プラズマの放電現象を理解し,適切な条件で廃棄物処理を行うことで更なる高効率化が期待できる.

卒業論文の内容は2016年4月24日にBS-フジテレビの「革新のイズム」にてテレビ放映されました。
日本機械学会 熱工学部門 若手優秀講演フェロー賞(2017年2月)「水プラズマのアーク制御による廃棄物処理の高効率化」

研究論文

国際会議
  • Takayuki Watanabe, Joji Kohara, Tsuyoshi Matsuo, and Manabu Tanaka: Discharge Characteristics of Water Thermal Plasma for D-glucose Decomposition, Proceedings of 22nd International Symposium on Plasma Chemistry, (2015.7 Antwerp, Belgium).
  • Yutaro Ozeki, Tsuyoshi Matsuo, Manabu Tanaka, and Takayuki Watanabe: Charactersitcs of Water Thermal Plasma for Biomass Decomposition System, Proceedings of 13th International Conference on Fluid Dynamics, OS16-29 (2016.11.11 Sendai International Center).
  • Takayuki Watanabe, Yutaro Ozeki, Tshuyoshi Matsuo, and Manabu Tanaka: Characteristics of Water Thermal Plasmas as Radical Source, The 15th International Conference on Advanced Materials, D3-I29-002 (2017.8.29 Kyoto University).

国内会議