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論文題目「ロングDCアークを用いたフッ素化合物の分解処理」

松井和希

1.緒言
 四フッ化炭素(CF4)や六フッ化硫黄(SF6)といった代替フロン等ガスは,半導体産業におけるエッチングガス,クリーニングガスとして,また変電所内のガス遮断器のアーク消弧ガスとして使用される.しかしこれら代替フロン等ガスの地球温暖化係数は,CF4が約6,500倍,SF6がCO2の約24,000倍と非常に大きい値である.また冷媒ガスとして用いられるC2HF5の地球温暖化係数もCO2の約3,700倍であり,これら温室効果ガスは適切な分解処理が求められている.従来の分解処理法としては燃焼処理法や触媒処理法などが挙げられるが,それぞれ不十分な分解温度,単体硫黄やフッ化水素による触媒被毒といった問題点がある. 熱プラズマ分解法は極めて高い分解温度,高化学活性という利点を有しており,高効率分解プロセスとして注目されている.熱プラズマ発生法の一つであるロングDCアークは,通常のDCアークよりも一桁以上長い電極間距離(300 mm)を有するため,被処理物質の滞留時間が長く,難分解性物質の処理に有効である.
 フッ素化合物は,解離したFの高い反応性のため,もとの分子構造に再結合してしまうという特徴がある.反応場中にH2,O2やH2Oなどの添加ガスをさらに導入することで,FをHFとして,CやSを酸化物に転換することができる.本研究では,ロングDCアークを用いたフッ素化合物CF4,SF6,C2HF5の分解処理を,添加ガス種違いの条件で実施した.その際の再結合過程を明らかにし,より効率的な分解処理プロセスを構築することを目的とした.またプラズマ電力を発電する際に火力発電所から生じるCO2排出量を概算し,本分解処理法の温室効果削減プロセスとしての適用可能性を検証した.

2.実験方法
 本実験で用いたロングDCアーク発生装置は主にプラズマ発生電源,プラズマトーチ,水蒸気気化器,HF等の有毒ガス除害のためのスクラバで構成される.陰極,陽極ともCu電極を使用し,電極間距離は300 mmとした.大気圧下,アーク電流値は10 A,プラズマガスN2の流量は25 L/min,被分解物質CF4,SF6,C2HF5の流量は0.5 L/minで固定し,3-7 kW程度の投入電力でプラズマを発生させた.分解補助ガスとしてH2,O2,H2Oの三種類を選定し,それぞれ分子中に含まれるHとFのモル比が0.5,1.0,2.0,OとCのモル比が1.0,2.0,4.0となるように流量を調整して供給した.H2Oは所定流量の液体水を送液ポンプで気化器に供給し,水蒸気に気化させた状態でプラズマトーチ内に供給した.
 トーチから出たガスはスクラバにて除害処理した後にサンプリング,排気を行った.回収されたガスについては,ガスクロマトグラフィー(GC-TCD)で分解率,質量分析器(QMS)を用いて生成物組成について分析を行った.

3.熱力学的検討
 分解補助ガスとしてH2Oを,CF4: H2O: N2= 0.5: 1.0: 25の比率で添加する際の平衡組成図では,放電領域である6,000-7,000 Kの高温部において,H2O,CF4はすべての結合が解離し,H,O,C,Fの活性種が生じる.一方,放電領域から外れた4,000 K以下の低温部では,H,FはHFを,Cは酸化されCO,CO2となり安定化することが示唆される.プラズマ分解後のCF4再結合を抑制するためには,反応場中にH,Oの活性種がともに存在することが望ましい.

4.実験結果
 各分解補助ガスを用いた際の分解率について,H2,H2O添加時,またO2,H2O添加時の結果において,分解補助ガスの流量を増加させる,つまりH/F比またO/C比を増加させるにつれて分解率が増加した.プラズマ反応場中において解離したCがCO,CO2に,FがHFとして回収されたためである.特にCF4の分解処理においては,反応場にOが供給される条件において高い分解率を得た.
 CF4分解実験時における残留CF4の持つ温室効果と,投入電力を発電する際に石炭ガス化発電設備(IGCC)から排出されるCO2の持つ温室効果を概算し,CF4を未分解で大気放散した場合の温室効果と比較した.温室効果を定量的に表す際に用いられるのが等価CO2排出量(CO2-eq)であり,これは対象物質の質量に地球温暖化係数をかけ合わせたものである.IGCCでの単位時間,単位出力当たりのCO2排出量は0.623 kg/kWhとした.未処理時のものと比較すると,添加ガス流量を増加させることでCO2-eqが大きく低減化した.特に分解補助ガスをH2Oとした場合,H/F=2.0,O/C=4.0の条件において,未処理時と比較して94.3%のCO2-eqを低減できることが示された.この場合,残留CF4による温室効果の割合が90.1%,発電時排出CO2の割合が9.8%であり,温室効果の最小化には残留CF4をさらに減少させる必要がある.
 本研究で行ったSF6分解実験の結果とともに,元素違いのフッ素化合物の分解現象を比較する.分解補助ガスをH2とした場合のCF4,SF6の分解率において,全H/F比の条件において,CF4よりSF6の方が高い分解率であった.この結果について,熱力学的観点から考察する.プラズマ分解後のCやSの活性種が高温領域から低温領域に移る際,ΔGが負となる自発的反応とその際の温度について算出した.CとFがCFに再結合し始める温度は4,670 Kであり,これはHとFがHFに再結合し始める温度である4,740 Kと非常に近い温度である.CF4分解においてはHによるFの回収が困難であることが示唆される.一方,SとFがSFに再結合し始める温度は3,070 Kであり,HFの再結合温度と約1,700 Kもの温度差がある.高温領域から外れたFはすぐにHFを形成し,SF6への再結合を抑制できる.

5.結言
 ロングDCアークを用いたフッ素化合物CF4,SF6,C2HF5の分解処理を,添加ガス種違いの条件で行った.熱プラズマ分解処理は温室効果削減プロセスとして有効であることが示された.CF4分解にはOによる酸化が効果的であり,SF6分解にはHによるFの回収が効果的であることが明らかとなった.熱プラズマを用いたフッ素化合物の分解処理における,プラズマ雰囲気制御に関する重要な知見が得られた.



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