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論文題目「水プラズマによるグルコースの分解機構」

小原丈司

緒言
熱プラズマによる廃棄物処理は幅広い分野で検討・実用化されている.熱プラズマの特長として、超高温であるため反応時間が短い点、一度に大量処理が可能である点、反応選択性が高い点があげられる.これらの特長に加え、水プラズマシステムでは冷却水をプラズマガスとして使用するため、プラズマ発生の熱効率が90%以上と高く、H、O、OHラジカルを豊富に持つため、高活性を有する.
今回、水プラズマシステムを従来の研究対象であった廃棄物処理から拡大し、新しくバイオマスガス化装置への適用を検討する.モデル物質として、バイオマスの主成分であるセルロースを構成するD-glucoseを選定した.しかし、このモデルに対して未だプラズマ中での分解機構が報告されていない.よって、本研究はD-glucoseの分解機構の解明を目的とする.

実験方法
本実験で使用した水プラズマ反応システムは直流電源を用いて大気圧下でプラズマを発生させており、溶液を吸湿材でアーク近傍まで吸い上げ、アークに直接導入している.アーク近傍まで導入された水は10000K程度の高温領域で分解され、分解生成物は冷却管を通り液相と気相に分離される.気体の分析にはガスクロマトグラフと質量分析器を使用し、液体の分析には、高速液体クロマトグラフ(HPLC)と紫外可視分光光度計(UV-vis)を使用した.

実験結果と考察
液体と気体の生成速度は実験から求め、固体の生成速度は質量収支から算出した結果から、分解生成物は主に液体または気体へ変換されており、固体回収量は微量であった.アーク電流の増加に伴い,供給速度が増加した.これは、水プラズマシステムでは供給がアークによる分解に直結しているためである.また、供給の増加に伴い回収される水の質量も増加するので、液体の生成速度も増加している.また、出力増加に伴い気体の生成速度が増加し、固体の生成速度は減少している.これはプラズマの出力が増加し、より原料の分解が促進されたためである.
1.0mol%のD-glucoseをアーク電流6 A、7.5 A、9.5 Aで分解した場合の気体は主にH2、CO、CO2からなり、CH4は微量に検出された.アーク電流の値の増加により、CO2には増加傾向、CH4には減少傾向が見られた.これは、出力が増加することによってプラズマ中のOHラジカルが増加し、酸化雰囲気が強まったためであると考えられる.また、分解後の気相中に炭素数2以上の化合物はほぼ存在しないことが示された.
液体分析の結果、HPLCを用いてFormaldehydeが、UV-visを用いてD-glucoseが確認された.これら2成分について、出力が増加すると濃度が減少する傾向が見られた.これは上述の通り、出力が増加したことによりプラズマ発生領域での分解が促進されたためであると考えられる.また、本装置でのD-glucoseの分解率は93%以上という結果が得られた.
以上の結果を合わせ、分解されたD-glucoseの炭素収支をFig. 5に示す.供給した原料中の炭素を基準として炭素収支をとった.分解生成物は主にCO、固体炭素、CO2であった.出力が増加すれば分解が進むため、未分解のD-glucoseは減少し、CO、CO2は増加した.

結論
本研究では、大気圧水プラズマシステムをバイオマス処理への応用を検討した.モデル物質としてD-glucose水溶液を水プラズマで分解する実験を行った結果、分解生成気体は主にH2、CO、CO2から構成されていた.分解生成液中には未分解のD-glucoseが存在し、分解率はおよそ93%以上となった.また、分解生成液中の副生成物としてFormaldehydeが確認された.以上の結果により、原料中炭素基準でCO、CO2に約50%、固体炭素に約30%変換されたことが判明した.今回の実験結果から、水プラズマシステムがバイオマス分解装置へ適用可能であることが示された.

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