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論文題目「分子ガス雰囲気におけるロングDCアーク変動現象の解析」

橋澤晃生

1.緒言
 熱プラズマ発生装置の一つであるロングDCアークは,通常のDCアークと比較して電極間距離が一桁以上長いため,プラズマ体積が大きく被処理物質の滞留時間が長い.陽極形状を従来の円柱型からリング型に改良することで,陽極で失われていた熱エネルギーを陽極下流まで高速で噴出させ,それをプラズマジェット流として活用することに成功している.ロングDCアークは大小さまざまなガス流量値やガス種での安定した放電が可能であり,廃棄物処理プロセスにおいて有用性が極めて高い.実際に,ロングDCアークは難分解性ガスの分解プロセスにおいて活用されている.
 新規なプラズマ発生装置の一つであるロングDCアークは,廃棄・合成分野など様々な分野への応用が期待されている.熱プラズマをプロセスへ適応させるための重要な因子として,プラズマ原料ガスによるラジカル種の生成や雰囲気選択性があげられる.ロングDCアークにおいても,さまざまなプラズマ原料ガスを用いた際の変動現象の理解が必要不可欠である.
 現在,プラズマ原料ガスにN2を用いた際のロングDCアークの変動現象に関しては解明されつつある.しかし,他のガス雰囲気におけるロングDCアークの変動現象に関する理解は充分でない.そこで本研究では,さまざまな分子性ガスや,それらを含む混合ガス雰囲気におけるロングDCアークの変動現象を解明することを目的とし,高速カメラとオシロスコープを用いた同期計測を行った.

2.実験装置および計測手法
 本実験で使用したロングDCアーク装置では,陰極とリング型陽極には水冷したCuを用いた.電極間距離350 mm,アーク電流10 A,リング型陽極のノズル内径15 mmとした.プラズマ原料ガスとしてN2とCO2の混合ガスを装置上部より合計30 L/minで流した.操作条件を全ガス流量30 L/minに対するCO2割合 0,0.333,0.5,0.667とし,CO2割合がおよぼすロングDCアークの変動現象への影響を評価した.CO2割合とは,原料中の全体積流量に対するCO2の体積流量をあらわす.高速度カメラの条件は撮影速度1,000および10,000fps,シャッター速度0.37および100 μsとし,リング型陽極下部における観測をオシロスコープとの同期計測により行った.

3.実験結果
 原料中のCO2割合を0,つまりN2のみを供給した際における電圧波形より特徴的なのこぎり波形が確認された.これはアークのリストライク現象に起因し,変動周期は約700Hzであった.リストライク現象では,ガス流によって伸長したアークが陽極内壁に再点弧する挙動が繰り返される.
 原料中のCO2割合0.5における電圧波形では,前述したリストライク現象とは大きく異なるアーク挙動が確認された.電圧の上昇とともに伸長したアークはある程度の長さまで伸びると,陽極内壁との再点弧ではなく,陽極下部のアーク間で再点弧することが確認された.そして経路が短縮されたアークは再びガス流によって伸長している.原料中のCO2割合0.5における電圧変動に対するFFT解析結果では,アーク電圧変動は250Hz付近の周期的な変動を有していることが示された.これは陽極下部に伸びたアークの短縮による変動周期である.
 原料中の各CO2割合におけるアーク平均電圧および特徴的な変動周波数において,CO2割合の上昇にともない平均電圧は増加している.これはCO2割合の上昇による電離度の増加に起因する.電離度の増加により,アークの電気的な安定性が向上した結果,最大アーク長が増加し,平均電圧が増加している.
 原料中のCO2割合の上昇により電離度が増加する理由は,解離エネルギーと電離エネルギーより説明できる.N2の解離エネルギーは9.1 eV,CO2からOが解離するエネルギーは5.5 eVであり,Nの電離エネルギーは14.5 eV,Oの電離エネルギーは13.1 eVである.このことから,Nの電離よりも先にCO2由来のOの電離の方が生じやすくなっている.よって原料中のCO2割合の上昇により電離度が増加する.また,原料中のCO2割合が上昇しても特徴的な変動周波数は変化しないことが確認された.
 高速度カメラにより撮影されたスナップショットを重ね合わせることにより算出した,原料中の各CO2割合におけるアークの存在確率分布において,原料中のCO2割合の上昇にともないアーク存在領域が大きくなり,アーク面積が増加することが確認された.これは原料中のCO2割合の上昇により電離度が増加し,電気的に安定な状態のアークがガス流速によって伸びやすくなるためである.

4.結言
 ロングDCアーク変動現象において,プラズマ原料を従来のN2からN2-CO2に変化させた際の影響の評価を,高速度カメラとオシロスコープの同期計測により行った.N2プラズマに確認されていたリストライク現象に起因した電圧変動は,CO2を原料中に添加することで確認されなかった.陽極まで伸びたアークにおいて,アーク間の再点弧によってアーク経路の短縮がおこることにより,特徴的な変動周期が確認された.これは原料中のCO2割合の上昇によって電離度が増加し,アークがガス流速によって伸びやすくなるためである.

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