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論文題目「反応非平衡モデルによる水プラズマジェットの熱流体解析」

千綿啓太

緒言
熱プラズマの特長として,反応速度が著しく高いこと,反応性が高いこと,反応雰囲気を選択できることの3つがある.本研究では,熱プラズマの中でも,冷却水を直接プラズマ源として使用するため,装置を小型化することができる,高い熱効率を得ることができるという利点を持つ水プラズマに着目した.水プラズマはHラジカル,Oラジカル,OHラジカルを豊富に持つため高活性を活かしたプロセス展開が望める.しかし,数千Kに及ぶ高温であるためにプラズマジェット内の物理化学過程を知ることは困難である.
本研究ではHラジカルやOHラジカルなどの化学種が存在する水プラズマジェット内の熱流体解析を試みた.数値解析は,反応速度を無限大とみなす局所熱平衡(LTE, Local Thermodynamic Equilibrium)モデルを仮定して行われる場合が多い.しかし,反応速度は有限であるので,反応速度を考慮する反応非平衡(CNE,Chemically Non-Equilibrium)モデルを用いる必要がある.水プラズマジェットでは,化学種および考慮する反応式が多いため,反応速度を考慮した計算例が少ない.実プロセスでは,プラズマジェット中の温度勾配や濃度勾配が急な領域における化学的非平衡性を把握,制御することが重要となる.
そこで本研究の目的は,水プラズマジェット中の化学種の反応速度,および拡散を考慮した熱流体解析を行い,化学的非平衡性がプラズマジェットに及ぼす影響を解明することである.

数値解析法
モデル プラズマジェットの温度,速度,および濃度分布は,プラズマジェットを熱流体として扱い,基礎方程式として流体力学の保存方程式を立て,それらを解くことによって求めることができる.質量,運動量,エネルギー,成分の各保存式を連立させて解いた.
反応速度を10分の1(CNEモデル-R1/10),また拡散係数を10分の1(CNEモデル-D1/10)としたモデルでの数値解析を行い,CNEモデルと比較することで,反応速度,および拡散がプラズマジェット中における化学的非平衡性に与える影響を検討した.

仮定 プラズマジェットに対する基礎方程式を立てるために用いられた仮定は以下の通りである.
a) 軸対象である.
b) 定常状態で層流である.
c) 光学的に薄い.
d) 粘性散逸は無視する.
e) プラズマにより引き起こされる電場は無視する.
f) 考慮する化学種の種類はH2O,H2,O2,H,O,H+,O+,OH,e-の9つとする.
g) H+とO+の数密度の和はe-の数密度と等しいとする.
h) 全ての化学種の温度は等しいとする.

アルゴリズム 本研究では,座標系として円筒座標系を用い,基礎方程式を離散化した.また,差分格子にはスタッガード格子を用いた.スタッガード格子では,流速を差分セル上で定義し,他の物理量である圧力や温度,物性値をセル中心で定義している.数値解析法のアルゴリズムには,SIMPLER法を用いた.

結果と考察
LTEモデル,および化学種の反応速度と拡散を考慮するCNEモデルにおいて熱流体解析を行った.LTEモデルでの温度分布と比較すると,CNEモデルでは半径方向に温度分布が広がっている.これは,温度勾配および濃度勾配の大きいx = 0~1 mmにおいて反応速度より拡散速度が大きくなり,組成の変化が生じたためと考えられる.その結果,LTEモデルよりもCNEモデルの方が半径方向へのエンタルピーの輸送が大きくなり,温度分布が半径方向に広がっていると考えられる.また,拡散係数を10分の1としたモデルでは,LTEモデルと比較すると,半径方向に分布が狭くなっている.これは,拡散係数がLTEモデルよりも小さくなり,半径方向へのエンタルピーの輸送が小さくなっているためである.
温度勾配の大きいx = 0.45 mmにおけるHの数密度の半径方向分布においてCNEモデルとLTEモデルを比較すると,半径方向位置0.5 mm以上においてHの数密度に大きな違いが確認された.LTEモデルでは反応速度が無限大であると仮定しているために,拡散速度に反応速度が追従できている.一方で,CNEモデルでは反応速度が有限であり,温度勾配が急な部分では拡散速度に反応速度が追従できない.したがって,CNEモデルはLTEモデルより半径方向にHの数密度分布が広がっている.また,反応速度を10分の1としたモデルは,CNEモデルより半径方向分布が広がっている.これは,反応速度が拡散速度により追従できなくなっていることを示している.拡散係数を10分の1としたモデルでは,半径方向へのHの数密度分布の広がりが小さくなっている.これは,拡散速度が遅くなったため,十分に反応速度が追従できるためと考えられる.
ダムケラー数は,拡散における代表時間と反応における代表時間の比を表す無次元数であり,ダムケラー数が大きいと化学平衡流れ,小さいと化学的非平衡流れとなる.プラズマジェットと雰囲気ガスの境界部分では濃度勾配が大きいので,拡散による化学種の移動速度が,再結合反応速度よりも早くなり,その結果反応非平衡性が現れている.反応速度を10分の1としたモデルでは,反応速度が拡散速度に十分に追従できていないことがわかる.しかし,拡散係数を10分の1としたモデルは,拡散による化学種の移動速度が小さくなっているために,再結合反応速度が追従できていることが確認された.

結言
本研究では,LTEモデルおよび化学種の反応速度と拡散を考慮するCNEモデルを用いて,大気圧下の水プラズマジェット流の熱流体解析を行った.数値解析により,プラズマジェットと雰囲気ガスの境界領域に近づくにつれて反応非平衡性が強く現れることが確認された.実プロセスでは,温度勾配および濃度勾配の大きい領域における物理化学過程の理解が不可欠であるため,CNEモデルを用いた熱流体解析が重要となることが示唆された.

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