| ホーム | 渡辺教授 | 研究 | 業績 | 装置 | メンバー | 卒業生 | 学生業績 |
| 講義 | 学会報告 | 入学希望者 | トピックス |

論文題目「ロングDCアークを用いたナノ炭素材料合成機構の解明」

赤松宏一

1. 諸言
 ナノ炭素材料にはグラファイトやグラフェン,カーボンナノチューブ,フラーレンといった同素体が存在する.高い電気伝導性や熱伝導性,機械的特性などの優れた材料特性を有し,電池材料や半導体材料,自動車の構造材料など幅広い分野での応用が期待されている.
 ナノ炭素材料の合成法として本研究では熱プラズマを用いた合成法に着目した.熱プラズマは高いエネルギー密度と急冷効果,雰囲気選択性を有している.そのため原料の自由度が高いことや従来では合成しにくい構造をもつ材料の合成が可能であることなどの利点を有する.従来の熱プラズマ発生手法を用いたナノ炭素材料の合成例も報告されている.
 本研究では新規の熱プラズマ発生方法であるロングDCアークに着目した.ロングDCアークは通常のDCアークよりも一桁以上長い電極間距離(200~400 mm)を有する.このためプラズマ体積が大きく,原料ガスの滞留時間が長くなることから,原料の均一な加熱が可能である.本研究ではロングDCアークを用いたナノグラフェンの合成および生成機構の解明を目的とした.

実験装置および実験方法
 本実験装置はプラズマ発生用電源,プラズマトーチ,冷却水供給システム,ナノ粒子生成チャンバー,固体生成物回収用フィルター,排ガスおよびサンプリング用配管からなる.陰極には二重管水冷構造のCuを用いた.陽極には外径50 mm,内径10 mmとするリング型構造の水冷Cuを用いた.電極間距離は230 mmとした.プラズマガスとして,流量30 L/minのArを用いた.炭素源はCH4を選定し,0.5 L/minの流量でArと混合気体の状態で反応管上部から流した.操作条件としてアーク電流値を8,10,13 Aと変化させた.
 反応後の気体はナノ粒子生成チャンバー,フィルターを経て排気される.インライン方式で設置されたガスクロマトグラフによって分析を行った.フィルターにて回収された固体生成物を走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM),ラマン分光法によって分析した.固体合成実験中に分光器を用いた発光分光法を行った.計測位置は反応管中心部,陽極直下60 mmの位置とした.

実験結果
 固体生成物の形状観察をSEM画像およびTEM画像から行った.SEM画像では粒状の凝集体およびシート状の構造体が確認された.TEM画像でも粒状の凝集体およびシート状の構造体が確認された.ラマン分光法によって得られたスペクトルでは,すべての電流値において炭素材料に特有のDバンド,Gバンド,D’バンド,2Dバンドが確認された.DバンドおよびD’バンドはグラファイト構造の欠陥や結合の乱れに由来する.Gバンドはグラファイト構造が存在するときに生じるバンドである.また2Dバンドはグラファイトやグラフェンなどの結晶性の高い炭素材料に顕著に現れる.SEM画像と2Dバンドの存在から,ナノグラフェンの生成が確認された.
 DバンドとGバンドの強度比ID/IG値は,ナノ炭素材料の特性を知る上で重要な要素である.この値が小さいほど,グラファイト構造中の欠陥密度が小さくなる.アーク電流値を上昇させるとID/IG値は減少した.したがってアーク電流値を上昇させることで欠陥密度の小さいナノグラフェンの合成に成功した.D’バンドとDバンドの強度比ID’/ID値はグラフェンにおける欠陥の要因を知るうえで重要な要素である.合成されたグラフェンのID’/ID値は0.06から0.12の範囲であった.したがってアーク電流値によらず欠陥の要因はsp3結合に由来することが明らかとなった.
  アーク電流値の上昇にともない,CH4の分解率は上昇した.これはアーク電流値の上昇にともないアーク温度とトーチ内の高温領域が増加したためである.
 分解・再結合機構を考察するため,発光分光を行った.発光分光の結果,いずれの条件でもCHおよびC2バンドが確認された.CHバンドは原料であるCH4の不完全分解によって生じたCHラジカルに起因する.一方でC2バンドはCH4が完全分解することで生じたC2ラジカルに起因する.アーク電流値を上昇させるとICH/IC2値は減少した.したがってアーク電流値を上昇させることで原料であるCH4の完全分解が促進されたことが明らかとなった.CH4の分解と欠陥密度には相関がみられた.
 以上の結果から,ナノグラフェンの生成機構について考察する.不完全分解によって生じたCHラジカルは低温領域においてHラジカルと再結合を形成し,CH2やCH3ラジカルが生成する.そしてこれらのCHnラジカルがナノグラフェンと結合し,sp3結合による欠陥を生じたことが示唆される.
 以上の考察からCH4の完全分解を促進させることでより高品質のグラフェンが合成可能といえる.

結言
 ロングDCアークを用いたCH4の熱分解により,ナノグラフェンの合成に成功した.アーク電流値を増加させることで,ID/IG値の小さい,つまりグラファイト構造の欠陥が少ないナノグラフェンが得られた.固体生成物の欠陥密度および欠陥の要因と気体生成物の関係からナノグラフェンの生成機構を明らかにした.高付加価値ナノ炭素材料の大量合成手法としてロングDCアークが有用であることが示された.  



 化学工学会第53回秋季大会 プラズマシンポジウム最優秀学生賞
(2022年9月)
ロングDCアークを用いたナノグラフェンの合成

 
プラズマ・核融合学会 第39回年会 プラズマフォトイラストコンテスト 優秀賞(銀賞) (2022年11月)
「アルゴン+メタン雰囲気におけるロングDCアークの高速度スナップショット」  

解説

  • 渡辺隆行, 田中学, 赤松宏一, 藤井皓一朗: メタンからの高効率連続水素生成技術の研究開発動向, 日本学術振興会プラズマ材料科学第153委員会第160回研究講演会資料, p.34-39 (2022.12).

国際学会

  • Hirokazu Akamatsu, Koichiro Fujii, Manabu Tanaka, and Takayuki Watanabe: Synthesis of Nanocarbon Materialas by Ling DC Arc, The 5th International Union of Materials Research Societies International Conference of Young Researchers on Advanced Materials, C-04-011, p.129 (2022.8.4 Kyushu University).
  • Koichiro Fujii, Hirokazu Akamatsu, Manabu Tanaka, and Takayuki Watanabe; Hydrogen Production by Hydrocarbon Pyrolysis by Long DC Arc, Proceedings of 25th International Symposium on Plasma Chemistry, POS-12-102 (2023.5.22 Miyako Messe, Kyoto).
  • (基調講演) Takayuki Watanabe, Hirokazu Akamatsu, Koichiro Fujii, and Manabu Tanaka: Thermal Plasma Processing for Hydrogen Production from Natural Gas, The 13th Asian-European International Conference on Plasma Surface Engineering, p.28, Mo1D-4 (2023.11.6 Busan, Korea).
  • Koichio Fujii, Hirokazu Akamatsu, Manabu Tanaka, and Takayuki Watanabe: Decomposition Mechanism of Hydrocarbon by Long DC Arc Plasma for Hydrogen Production, The 13th Asian-European International Conference on Plasma Surface Engineering, p169, P-032 (2023.11.6 Busan, Korea).
国内学会