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論文題目「月土壌シミュラントを用いた酸素構造システムに関する検討」

末吉克也

将来の有人月面活動を想定し,呼吸や燃料等で利用される酸素の製造システムの確立が望まれている。様々な酸素製造プロセスが提案されているが,月土壌の水素還元プロセスは最も実現可能性の高いプロセスである。このプロセスは,主に月土壌中のイルメナイト(FeTiO3)を水素還元し,製造された水を電気分解することで酸素を得る。本研究では,月土壌シミュラントを用いた水素還元による酸素製造システムの検討を行った。

3種類の月土壌シミュラントを用い,月土壌の水素還元における反応メカニズムを検討した。推算した活性化エネルギーは反応が進行するに従い上昇したため,水素還元され易い酸化鉄から水素還元され難い鉱物およびガラス質へ還元対象物質が変化していると考えられた。従って,月土壌の水素還元における律速段階は化学反応律速である。月土壌シミュラントの水素還元において,鉱物組成およびガラス質の含有量は水の製造速度や製造量に大きく影響した。反応温度1073-1323 Kにおいて,輝石およびカンラン石は還元されにくく,その他の鉱物はほぼ完全に還元された。ガラス質を多く含むシミュラントは水素還元反応速度および製造量に対して強い温度依存性を示した。

原料供給工程や反応物回収工程において粒子形状は機械的性質に大きな影響を及ぼす。そこで,誘導結合型熱プラズマおよび酸素バーナーを用いて石質とガラス質が凝集した特異な形状を持つ粒子(アグルチネート)の作製を試みた。アグルチネートは月土壌中に約50wt%含まれ,月土壌の忠実な模擬のためには欠かせない。月土壌シミュラントを試料とし,誘導結合型熱プラズマおよび酸素バーナーを用いてインフライト溶融させることで,アグルチネート状の試料の作製に成功した。アグルチネートの作製において,重要なパラメータはトーチと回収部間の距離であり,距離が近いとインフライト溶融したシミュラントが冷却・固化する前に回収部で堆積するため,アグルチネート状の粒子が作製できる。また,作製したアグルチネートを水素還元することにより,アグルチネートに含まれる微小な球状の金属鉄(ナノフェーズ鉄)の模擬にも成功した。

本研究により,鉱物・ガラス質・アグルチネートを模擬した月土壌シミュラントの作製は月土壌の機械的性質のみならず化学的性質を把握する上でも重要であることが示された。月資源利用技術の更なる発展にはそれぞれを月土壌と同じ割合で模擬した月土壌シミュラントの作製が必要である。


修士論文の内容は2008年3月8日にBS-Japanの「THE MOON 〜人類の夢・月世界の未来〜」にてテレビ放映されました。
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