| ホーム | 渡辺教授 | 研究 | 業績 | 装置 | メンバー | 卒業生 | 学生業績 |
| 講義 | 学会報告 | 入学希望者 | トピックス | サイトマップ |

論文題目「月資源からの酸素製造システムの開発」

小松崎聡

現在,宇宙開発計画において重要な位置を占めている項目の一つに,月面基地建設があげられる。月は地球の唯一の衛星であり,最も近い天体である。この月での活動が宇宙開発のステップアップには欠かせないものであると考えられる。将来人類が月面活動を行うときに水,酸素は必要不可欠である。それらを地球から輸送するのは大変コストがかかるので,経済的な月面活動を実現するためには,月資源を利用した水及び酸素製造が有効であると考えられている。

本研究では,月土壌からの水及び酸素製造のために従来提案されているプロセスに関して平衡論を基に比較検討した。様々な還元剤を用いたプロセスの中で,水素を使ったプロセスは,地上ですべての技術の実証がされている。反応の段数も最も少なく簡単なプロセスであり,プロセス中で容易に生成気体を分離できる唯一のプロセスである。更に最高温度も低く,必要なエネルギーも少ない。また,生成された水は有人活動で使えることから,総合的に判断して酸素製造に最も適しているという結論に至った。

そこで,実際の月土壌を模擬したシミュラントを用いて,水素還元法による水製造実験を行い,最適条件ならびに反応機構に関する検討を行った。まず,熱重量分析装置を用いて月土壌シミュラントの水素還元における詳細な反応機構を調べた。熱重量分析装置を用いた実験では,試料粒径,反応温度,水素濃度に関する検討を行い,活性化エネルギーを求めた。粒径が小さい粒子の方が反応の表面積が大きいことから反応速度が速くなること,反応温度が高い方が反応速度は速くなるが1273 Kを超えると,試料の溶融が始まり反応が抑えられること,水素濃度に対して1次の反応であるという結論をそれぞれ得た。また,得られた活性化エネルギーから初期ではFe2O3の還元が起こり,その後FeOやFeTiO3の還元が起きているという結論に至った。

また,固定床還元実験装置を用いて実際の月面プラントを考慮した検討を行った。試料量,反応温度,水素流量,試料粒径に関する影響について検討を行い,熱重量分析装置を用いた実験結果との比較検討を行った。試料量及び水素流量を変化させた実験の結果から,固定床還元実験装置を用いた場合,水生成量が多いため,雰囲気が水素100%にならずに,反応速度が遅くなるという結論を得た。この結果は,水素濃度に対して1次であると仮定して熱重量分析装置を用いた実験結果から推算した反応速度と比較したときの傾向と一致する。

本研究により,水素還元法が月面での酸素製造に最も適しているという結論に至った。また,固定床還元実験装置で水製造が十分可能であることから,固定床水素還元を用いた酸素製造システムを提案する。


国際学会

国内学会