水プラズマは通常外部に捨てている冷却水を直接放電領域に吹き込み,プラズマガスとして用いるため,90%以上の高い熱効率を得ることができる.また,本来共存させにくいOラジカル,Hラジカルを豊富に有するため,新しい廃棄物処理プロセスとして期待されている.本研究は,難水溶性の有機化合物である1-デカノールを処理対象物質として選定し,水プラズマ中での分解,その分解機構を解明することを目的とした.しかし,プラズマガスとして1-デカノールに何も前処理を行わず,水と共にプラズマガスとして用いた場合,すぐに水相と油相に分離してしまい,1-デカノールと水の蒸発に偏りが生じてしまう.したがって,本研究では1-デカノールを,界面活性剤であるPolyoxyethylene(20)cetyl
etherを用いることでエマルションとして水に分散させ,プラズマガスとして用い分解実験を行った.また,界面活性剤と水のみを混合させた水溶液を水プラズマによって分解し,1-デカノールエマルションの分解実験と比較することで,分解機構について検討した.
1-デカノールエマルションの分解実験では,1-デカノール濃度を0.1mol%と固定し,アーク電流を5,6,7.5 Aに変化させた場合と,アーク電流を6
Aと固定し1-デカノールを0.01,0.05,0.1,0.5 mol%に変化させた場合で検討を行った.界面活性剤水溶液の分解実験は,アーク電流値を6
Aと固定し,濃度を0.00175,0.01,0.025,0.1 mol%と変化させた場合と,Polyoxyethylene(20)cetyl
ether濃度を0.025 mol%で固定し,アーク電流を5,6,7.5 Aに変化させた場合で検討を行った.なお,エマルションとの比較のため,原料溶液中の炭素原子の割合を1-デカノールエマルションと一致させた.以上の実験を界面活性剤にTween60を選定した際にも行った.また,副生成物についての考察を深めるためにアセトン水溶液について水プラズマによる分解実験を行った.アーク電流を6
Aで一定とし,濃度を変化させた場合と,濃度を5 mol%で一定にし,アーク電流を変化させた場合の2条件で実験を行った.
実験結果より,以下の結論を得た.1-デカノールの固体炭素,一酸化炭素,二酸化炭素への転化率は96 %以上である.したがって,難溶性有機物であってもエマルション状にすることで分解処理が行うことができることがわかった.さらに,エマルションと界面活性剤水溶液の実験結果を比較することで,1-デカノールからはエタノール,Polyoxyethylene(20)cetyl
etherからはアセトンが主に生成することがわかった.また,本研究において分解生成気体から60 %以上の水素が確認されていることから,廃液から有用なガスを生成できるといえる.したがって,工業的にも優れた手法であると言える.
国内学会
- Yusuke Ishii, Manabu Tanaka, Sooseok Choi, and Takayuki Watanabe: Decomposition
Mechanism of 1-Decanol Emulsion by Water Plasma at Atmospheric Pressure,
Abstracts of Papers of 26th Symposium on Plasma Science for Material, p.8,
P-03 (2013.9.23 九州大学百年講堂).
- 渡辺隆行, 石井佑昌, 田中学: 水プラズマを用いた難水溶性有機物の分解機構, 化学工学会第79年会, I215 (2014.3.19 岐阜大学).