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論文題目「多相交流アークにおける電極機構の解明

橋詰太郎

本研究では,熱プラズマの中でもエネルギー効率が高く,プラズマ体積が大きい,ガス流速が遅いといった利点を持ち,粉体処理に適した熱プラズマである多相交流アークに着目した.多相交流アークは12台の交流電源を利用し,位相をずらして放電させることで12本の電極間に大体積の高温領域を安定的に発生させる熱プラズマ発生手法であり,その特長からインフライトガラス溶融プロセスやナノ材料合成プロセスなどへの応用が期待され,実用化を目指した研究が行われている.しかし,多相交流アークは新規な熱プラズマ発生手法であるため,アーク変動現象や電極現象などの重要な基礎現象の理解が充分でない.特に電極消耗の低減化により,プラズマの安定性向上や不純物の混入防止が期待されるため,電極消耗現象を理解することは多相交流アークを実用化するにあたって必要不可欠である.多相交流アークの電極は電極金属の蒸発,または溶融電極からの液滴飛散によって消耗することが確認されている.そこで本研究では,多相交流アークにおける電極消耗機構の解明を目的とし,液滴飛散現象と電極金属蒸発現象を高速度カメラと特定の波長のみを透過するバンドパスフィルター(以下BPF)を組み合わせることにより観察した.

多相交流アーク電極における液滴飛散現象の観察により,液滴飛散現象は交流電源の交流周期に大きく影響を受けることが確認され,主に陰極時に液滴飛散による消耗が発生することが明らかとなった.このような液滴飛散挙動は電極先端に働く力の釣り合いに起因するものであるため,電極先端に働く力を推算することで液滴飛散機構を考察した.電極先端に働く力としては (i)表面張力による圧力,(ii)電磁力,(iii)イオン衝突による圧力,(iv)プラズマ気流によるせん断応力が考えられた.表面張力による圧力,イオン衝突圧力は液滴の発生を妨げる力,電磁力,プラズマ気流によるせん断応力は液滴を電極から分離・離脱させる力である.推算結果より,陽極時・陰極時で電極溶融面積が異なっており,その影響を受けて陽極時には表面張力による圧力が,陰極時には電磁力が支配的であることがわかった.このことから,液滴飛散の駆動力は電磁力であり,電磁力が支配的となる陰極時に主に液滴飛散が生じることが明らかとなった.

また,液滴飛散による電極消耗量の低減化に適した電極を検討した.多相交流アークにおいては高融点金属であるタングステンを電極主材料とし,それに低仕事関数の金属酸化物を微量添加した電極を用いている.本研究では異なる酸化物を添加した3種類の電極を比較し,添加酸化物が液滴飛散に与える影響を考察した.結果,添加酸化物種によって電極温度に大きな変化は見られなかったが,融点の低い酸化物を添加した電極ほど溶融面積は大きくなることが確認された.融点の低い添加物は広い領域で溶融しており,溶融部内に混入する添加物量が増加する.結果,溶融部内におけるタングステンの融点がより低下し,溶融面積が増加したと考えられた.液滴飛散の駆動力となる電磁力は電極溶融面積が大きくなるほど影響が抑えられるため,より融点の低い酸化物を添加した電極が液滴飛散量の低減化に適していることが明らかとなった.

電極金属であるタングステンの蒸発現象の観察により,多相交流アークにおいては陽極時に主に蒸発現象が発生していることが確認された.これは,金属蒸気は高温のアーク中でイオン化し,電極近傍の電場の影響を受けるためと考えられた.結果,陰極時には蒸気が電極側に戻るため,陽極時に主に蒸発による消耗が発生することが示唆された.また,異なる酸化物を添加した3種類の電極を比較し,電極蒸発量の低減化に適した電極を検討した.結果,添加酸化物種によりタングステンが蒸発するタイミングおよび蒸発量に大きく違いが出ることが確認された.融点・沸点の低い酸化物を添加した電極ほど交流周期中のより早いタイミングでタングステン蒸発が発生し,より著しい蒸気が発生する.このことから,添加酸化物の蒸発がタングステンの蒸発に大きく影響を与えることが見出された.

添加酸化物の蒸発がタングステンの蒸発に与える影響を確認するため,高速度カメラとBPFにより添加酸化物由来の金属蒸気を観察した.結果,添加酸化物の蒸発はタングステンの蒸発の直前に発生していることが確認された.このことから,添加酸化物の蒸発がタングステン蒸発のトリガーとなっており,多相交流アーク電極における電極蒸発機構が明らかとなった.添加酸化物由来の金属蒸気がアーク中に混入すると電流密度が上昇し,アーク温度が局所的に上昇する.アークから電極へ流入する熱量が上昇することにより電極温度が上昇し,タングステンの蒸発につながると考えられた.タングステン蒸発が発生し始めた後には,交流周期における電流値の上昇に伴う電極温度の上昇とともに蒸発速度も上昇する.発生するタングステン蒸気は交流周期における最大電流時に最大となるため,最大電流時より早いタイミングでタングステン蒸発が発生すると蒸発による消耗量は大きくなることが示唆された.このことから,融点・沸点の高い酸化物を添加した電極ほど蒸発による消耗は低減化できることが示唆された.

多相交流アークはインフライト溶融プロセスやナノ材料合成プロセスなど,様々な分野への実用化が期待されている.液滴飛散量低減化に適した電極や,電極蒸発量低減化に適した電極を各プロセスに応じて使用することで,多相交流アークの実用化が可能となる.

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