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論文題目「Decomposition of organic waste by water plasmas at atmospheric pressure」
(大気圧の水プラズマによる有機系廃棄物の分解)


娜仁格日楽

熱プラズマによる廃棄物処理技術の開発が幅広く検討されている.熱プラズマは電子のみならずイオンや原子などの重い粒子も高温領域にあり,かつエネルギー密度が大きいため,処理対象物質を短時間で高温にすることができる.また,化学反応速度は温度に対して指数関数的に増大するため,熱プラズマ中では反応速度が著しく大きくなる.さらに,プラズマ中における高温状態の物質を急速に冷却することによって有害な副生成物を抑制することができる.特に,熱プラズマの一種である水プラズマは経済上および安全上優位である.水プラズマに存在しているHラジカルやOラジカルを上手に利用することができれば,新しい廃棄物処理プロセスを開発することが可能となる.本研究では,大気圧の直流放電の水プラズマによる有機系廃棄物の分解および分解機構を検討することを目的とする.

第1章「General introduction」(諸言):本章では,まず熱プラズマ及び熱プラズマ応用に関する研究について述べた.次に,従来の熱プラズマを用いた廃棄物処理の研究動向とその問題点,さらにそれらの問題を解決する方法として考えられた水プラズマ処理法に関して述べた.

第2章「Decomposition of hydrofluorocarbon and perfluorocarbon by water plasmas」(水プラズマによるハイドロフルオロカーボンおよびパーフルオロカーボンの分解):ハイドロフルオロカーボン(HFC)やパーフルオロカーボン(PFC)は温室効果ガスであるため,京都議定書によって削減対象物質として指定されている.本章では,大気圧の直流放電による水プラズマ発生装置を用いてHFC (HFC-134a,HFC-32) およびPFC (CF4)の分解を行った.その結果,プラズマパワーに対するHFCとPFCの供給速度が最大0.58-2.5 mol kWh-1 において,フッ素回収率99.9%以上が得られた.なお,CF4の分解後の排ガス中には副生成物が検出されなかったが,HFCの分解後の排ガス中には未分解のHFC-134a,HFC-32以外に微量なCHF3, CH2F2, CF4等の再結合フロンが検出された.これらの実験結果に基づき,水プラズマによるHFCやPFCの分解機構を解明した.本システムでは,通常の水を直接放電領域に吹き込み,蒸発・電離させるによってプラズマを発生しているため,従来のプラズマ発生装置に比べ,複雑な水蒸気供給設備を必要としないこと,および熱効率が高いことなどの利点がある.

第3章「Decomposition of phenol in wastewater by water plasmas」(水プラズマによるフェノール含有排水の分解):工場等から出る排水処理が重要な課題となっており,種々の処理方法が検討されている.本章では,高濃度フェノール含有排水処理について検討した。大気圧の直流放電の水プラズマにより1mol% フェノール溶液に含まれるフェノールをppmレベルまで分解することができた.アーク電流が7 Aの時,分解に有効な水プラズマの高温領域におけるフェノールの滞留時間は1 msであるが,このような短時間でCOD (105 mg L-1) を320 mg L-1まで減らせることができた.

第4章「Decomposition of acetone by water plasmas」(水プラズマによるアセトンの分解):揮発性有機化合物(VOC) による大気汚染状況が依然として厳しいことから,その排出抑制や処理のための研究は盛んに行われている.アセトンは工業や医学など領域に幅広く使用されているが,VOCと規定されているため,適切な分解方法が必要となっている.本章では,大気圧の直流放電の水プラズマによってアセトン溶液(1-10 mol%)を分解し,生成したガス, 液体,および固体の成分を詳細に分析した.本実験で得られた結果に基づき水プラズマ中におけるアセトンの分解機構について検討した.アセトンは水プラズマ中で主に熱分解され,C-C結合の開裂によるCH3,CHなどのラジカルを生成する.

第5章「Role of CHx(1-3) and OH in decomposition of organic compounds by water plasmas」(水プラズマによる有機物の分解におけるCHx(1-3),OHの役割):水溶性有機系廃棄物のモデル物質としてアセトン,グリセリン,メタノール,エタノール水溶液を用い,水プラズマによる分解実験を行った.分解生成ガス,液体,固体を定性分析,定量分析することによって分解機構の検討を行った.分解生成ガスは主にH2,CO,CO2,CH4であり,分解ガス中に含まれるH2の濃度は60%以上であった.また,微量な低分子有機物(HCHO,HCOOH)が生成液体中から検出された.グリセリンとメタノールの分解では固体炭素の生成が見られなかったが,アセトンとエタノールの分解では固体炭素の発生量が顕著たった.これらの実験結果は,有機物の分解によって生成したラジカルが分解機構において重要な役割を演じていることを示している.水プラズマ中に生成されたCH3はすすを生成し,CHは水プラズマ由来のOラジカルに酸化されてCOを生成し,OHは酸化による分解を促進させることがわかった.

第6章「Conclusions」(結言)では, 本論文を総括し,今後の展望を述べた.


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