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論文題目「Thermal Performance Characterization of Capric Acid and Lauric Acid Mixture for Low Temperature Energy Storage」
(カプリン酸・ラウリン酸混合物の冷熱用蓄熱材としての蓄熱・放熱特性)


Maria N. R. Dimaano

本論文では、カプリン酸(decanoic acid)とラウリン酸(dodecanoic acid)の混合物から成る冷熱発生用潜熱蓄熱システムを提案した。カプリン酸とラウリン酸の混合物はココナッツ油から製造することが可能なので、フィリピンなどの東南アジアでは冷房用の廉価な潜熱蓄熱材としての適用が期待できる。本論文は「Thermal Performance Characterization of Capric Acid and Lauric Acid Mixture for Low Temperature Energy Storage(カプリン酸・ラウリン酸混合物の冷熱用蓄熱材としての蓄熱・放熱特性)」と題し、以下の7章より構成されている。

第1章「Introduction」では、潜熱蓄熱に関する既往の研究について概説し、本研究の位置付け、意義、および目的について述べた。本研究の目的は、カプリン酸とラウリン酸の混合物を冷熱用蓄熱蓄熱材として用いたときの蓄熱・放熱特性を調べることである。さらに、カプリン酸とラウリン酸の混合物に第3成分を添加して、蓄熱・放熱特性の向上に関する検討を行った。

第2章「Material Characterization and Selection」では、カプリン酸とラウリン酸の混合物の特徴について検討した。カプリン酸とラウリン酸の割合を変えて、示差熱分析によって融点および融解潜熱を測定した結果、カプリン酸とラウリン酸の割合が65 %と35 %である混合物が潜熱蓄熱材として最も適していることがわかった。この場合の混合物の融点は18.0 ℃、融解潜熱は140.8 kJ/kgであった。蓄熱・放熱のサイクル試験を行った結果、カプリン酸とラウリン酸の混合物は、潜熱蓄熱材として化学的に安定であることがわかった。

第3章「Experimental Set-up for Thermal Energy Performance Test」では、カプリン酸とラウリン酸の混合物の融解および凝固時の温度分布を測定する方法について検討を行った。カプリン酸とラウリン酸の混合物を銅製の鉛直型円筒に封入し、水を伝熱媒体として用いたものを蓄熱槽とした。潜熱蓄熱材の温度分布は、10組の熱電対を半径方向に設置したプローブを用いて測定した。このプローブによって潜熱蓄熱材の蓄熱・放熱特性を解析できることを確認した。

第4章「Performance Investigation of Capric Acid-Lauric Acid Mixture as Latent Heat Storage Material for Cooling Application」では、カプリン酸とラウリン酸の混合物の融解および凝固時の温度分布、蓄熱および放熱特性について検討を行った。さらに、n-ペンタデカンに対しても、融解および凝固時の温度分布を測定し、カプリン酸とラウリン酸の混合物と比較を行った。カプリン酸とラウリン酸の混合物の融点は18.0 ℃であるので、冷熱用潜熱蓄熱材としては融点がやや高い。カプリン酸とラウリン酸の混合物の融点を低下させるために、他の混合物を添加することが必要であるので、以下の第5章と第6章ではカプリン酸とラウリン酸の混合物に第3成分を添加して、蓄熱・放熱特性の向上に関する検討を行った。

第5章で「Performance Investigation of Capric Acid-Lauric Acid Mixture with Pentadecane as Latent Heat Storage Material for Cooling Application」では、カプリン酸とラウリン酸の混合物にn-ペンタデカンを混合した潜熱蓄熱材の融解および凝固時の温度分布、蓄熱および放熱特性について検討を行った。示差熱分析から、カプリン酸とラウリン酸の混合物にn-ペンタデカンを50 %を混合した場合に、融点は10.2 ℃で最も低く、さらに融解潜熱は157.8 kJ/kgで最も高い結果を得たが、均一な溶融状態にはならないため、潜熱蓄熱材としては不適当であった。n-ペンタデカンを10 %を混合した場合には、融点が13.3 ℃、融解潜熱が126.7 kJ/kgであり、狭い温度範囲で融解・凝固が起きるので、冷熱用潜熱蓄熱材として最も適していることがわかった。

第6章で「Performance Investigation of Capric Acid-Lauric Acid Mixture with Chemical Additives as Latent Heat Storage Material for Cooling Application」ではカプリン酸とラウリン酸の混合物に10種の有機化合物を添加した潜熱蓄熱材の融解および凝固時の温度分布、蓄熱および放熱特性について検討を行った。カプリン酸とラウリン酸の混合物に対する溶解度、および化学的な安全性などから10種類の有機化合物を選択した。示差熱分析を行った結果、サリチル酸メチル(2-hydroxy methyl ester benzoic acid)、オイゲノル(2-methoxy-4-(2-propenyl)phenol)、あるいはシネオール(1,3,3, trimethyl-2-oxabicyclo [2,2,2] octane)をカプリン酸とラウリン酸の混合物に添加した場合が冷熱用潜熱蓄熱材として適していることがわかった。また、カプリン酸とラウリン酸の混合物においては、凝固点降下は10.7 K kg/molであることがわかった。この値を用いて、必要な蓄熱温度に応じた添加物の濃度を決定することができる。カプリン酸とラウリン酸の混合物にサリチル酸メチル、オイゲノール、あるいはシネオールをモル分率で0.1を添加したものを潜熱蓄熱材として用い、蓄熱・放熱特性を調べた結果、サリチル酸メチルを添加した場合に、最も狭い温度範囲で融解・凝固が起きるので、最短の融解時間と凝固時間を得ることができた。よって、カプリン酸とラウリン酸の混合物を冷熱用潜熱蓄熱材として用いるには、サリチル酸メチルを添加すればよいことがわかった。

第7章「Conclusion」では、各章で得られた成果を総括し、カプリン酸とラウリン酸の混合物を冷熱用潜熱蓄熱材として用いる場合の特徴について要点を整理し、さらに今後の研究課題について述べた。カプリン酸とラウリン酸の混合物は、その蓄熱密度、化学的特性、安定性から潜熱蓄熱材として適しているが、冷熱用潜熱蓄熱材として用いるには融点がやや高い。しかしサリチル酸メチルなどを添加することによって、冷熱用潜熱蓄熱材として適用可能な融点にまで低下することができることなどを本論文の結論とした。


学位取得までの様子はThe Academia (Official Bulletin of the University of Santo Tomas June 2003)に掲載されています。


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