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論文題目「多相交流アークによるLi-Mn複合酸化物ナノ粒子の合成」

玉江藍花

1. 緒言
 多相交流アークはエネルギー効率が高い,プラズマガス流速が遅い,プラズマ領域が広いといった利点を有し,多量の粉体処理プロセスに適する.しかし,その新規性,独自の時空間特性から研究例が少なく,粉体供給時の基礎現象や生成物特性の理解は充分でない.
 スピネル型LiMn2O4は,層状岩塩型LiCoO2に代わる安価なリチウムイオン二次電池の正極材料として研究がなされている.これまでに高周波熱プラズマによるLiMn2O4ナノ粒子の合成例が報告されているが,高周波熱プラズマは多大な電力を要し外的擾乱に敏感であるという欠点がある.そこで,本研究では多相交流アークを用いてスピネル型LiMn2O4ナノ粒子を合成し,その生成機構を解明することを目的とした.

2. 実験方法
 多相交流アーク発生装置では,炉側面より複数電極を放射状に挿入し,位相の異なる電圧を印加することで電極間にプラズマを発生させる.Wを主成分としてLa2O3を2 wt%添加した直径6 mmの電極を用いて,6相交流でプラズマを発生させた.大気圧下でアーク電流値を150 A,電極間距離を60 mm,周波数を60Hzでプラズマを発生させた.電極近傍からArシールドガスを電極あたり10 L/min流し,Arキャリアガスを7-12 L/minとした.
 原料にはLi2CO3とMn,またはLi2CO3とMnO2の混合粉体をそれぞれ用い,LiとMnの組成比を1:1-1:5の範囲で変化させた.これらの原料を,電極上部70-150 mmの高さに配置した供給管よりプラズマ中に投入した.合成したナノ粒子は壁面から回収した.生成ナノ粒子は,粉末X線回折(XRD),および透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて分析した.

3. 実験結果と考察
 異なる原料組成比においてもスピネル型LiMn2O4の合成に成功した.原料中のLi含有量の増加に伴い,XRD分析から得られたLiMn2O4の積分強度比が増大した.また,原料中のLiの割合が等量比であるLi:Mn=1:2より大きい条件においても副生成物Mn3O4の生成が観察された.これは,多相交流アークの独自な時空間特性によりLi,Mn蒸気の分布に偏りが生じたことが原因である可能性が高い.今後,原料由来の線スペクトルを利用して金属蒸気挙動を可視化し,各金属蒸気の分布を制御することが有効だと考えられる.
 ナノ粒子の形態および粒径を評価するためTEM観察を行った.複数の六角形状の粒子が確認できた.これは,主生成物のスピネル型LiMn2O4が有する切頂八面体構造に由来する.平均粒径は78 nmであった.

4. 結言
 多相交流アークにより,スピネル型LiMn2O4の合成に成功した.特に,原料中のLiを増加させることで,生成物中のLiMn2O4の割合が増加するという結果が得られた.以上より,多相交流アークを用いて,Liイオン電池正極材料としての金属複合酸化物の大量合成が可能となることが示唆された.


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