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論文題目「ナノ粒子合成プロセスにおける多相交流アークの変動現象の解析」

縄田祐志

緒言
熱プラズマはエンタルピーが極めて大きく,従来はこの熱を利用して溶接・溶射などの分野で応用されてきた.近年ではその化学的活性という特長を活用することで,ナノ材料創製プロセスへの展開が期待されている.本研究では,他の熱プラズマと比較してエネルギー効率が高く,プラズマ体積が大きい,ガス流速が遅いという特長を有する多相交流アークに着目する.多相交流アークは,新規な熱プラズマ発生手法であるため,アークの変動現象や電極現象などの基礎現象が十分に理解出来ていない.特にアークの変動現象は,ナノ粒子合成プロセスにおける原料の蒸発過程や,その後の粒子成長過程に重要な影響を及ぼすことが考えられる.そこで本研究では,多相交流アークの変動現象の解明を目的とした.

実験方法と計測方法
多相交流アーク発生装置は12台の交流電源を利用し,位相を各30°ずつずらして放電させることで,12本の電極間にアーク放電を安定に発生させている.大気圧の空気中での放電であるが,W電極の酸化防止のためArを流している.装置上部の粉体供給管から平均粒径30 μmのCu粉体をキャリアガス(N2)によりプラズマ中へ導入することで,CuOナノ粒子合成実験を行った.プラズマ発生に関する操作条件として,放電相数を6相または12相とし,交流周波数を60〜300Hzの範囲で変化させた.また粉体供給条件として,キャリアガス流量を5〜10 L/min,粉体供給量を10〜54 g/minの範囲で変化させた.ナノ粒子合成プロセスにおける多相交流アークのmsオーダーでの変動現象を評価するために,特定の波長のみを透過するバンドパスフィルター光学系を用いた高速度カメラ計測を試みた.多相交流アークからの様々な発光の中で,原料金属蒸気(Cu, 510 nm)と雰囲気ガス(O, 777 nm)からの発光を観察することで,原料金属蒸気の相対強度変動を評価した.

実験結果と考察
12相交流アークのCu原子の相対強度変動は,変動は有するものの概ね一定であることが見てとれる.一方6相交流アークによる粉体処理時では,12相交流アークと比較して相対強度が大きく変動していることが分かる.60Hzを基本周波数とした12相交流アークの場合,相移動の周期は1.4 msとなるが,6相アークでは3.3 msとなる.既に報告されている粒子計測結果より,Cu原料のプラズマ中での滞留時間は約5~10 msと推算されており,この値は12相交流アークの相移動周期に比べて十分長い.以上より,多相交流アークの放電相数の増加に伴い,アーク変動の時定数が十分短くなったため,Cu蒸気の相対強度変動が抑制されたと考えられる.12相交流アークおよび6相交流アークで生成したCuOナノ粒子のTEM像から得られた粒径分布より,ばらつきの指標であるCv値を評価した.その結果,12相交流アークでは56%であったのに対し,6相交流アークでは86%であることが分かった.

結言
本論文では,多相交流アーク中の変動現象の解析を行った.放電相数を増加させることで,金属蒸気の変動が低減され,より粒径が均一なナノ粒子が得られた.以上より,多相交流アークの変動特性を制御することで均一なナノ材料創製が可能となることが示された.

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