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論文題目「多相交流アークにおける電極の溶融現象」

中根僚太

緒言
多相交流アークはその特徴から多量の粉体処理プロセスへの利用が期待されている.しかし,新規の発生手法であるため,基礎現象の理解が不十分である.特に電極消耗の低減化により,プラズマの安定性向上や電極由来不純物の混入防止が期待されるため,電極現象の理解が不可欠である.
多相交流アーク電極は,溶融部からの液滴飛散と電極金属の蒸発によって消耗する.液滴飛散による電極消耗量は全体の消耗量に対して無視できない割合を占めるため,本研究では液滴飛散現象に着目し,多相交流アーク電極における溶融機構を解明することを目的とした.

実験方法
多相交流アーク発生装置の概略図をFig. 1に示す.炉側面から複数の電極を放射状に挿入し,位相をずらして放電させることで熱プラズマを発生させる.プラズマガスはArを用い,電極1本当たりの電流を100 A,電極間距離を100 mmとした.
本研究で着目する電極には,高融点金属であるタングステン(以下W)に,低仕事関数である金属酸化物を微量添加した電極を用いた.酸化物添加の影響を検討するためThO2,CeO2,La2O3をそれぞれ2wt%添加したW電極を使用し,液滴飛散量を計測した.また,電極における添加酸化物の分布を評価するため,放電前後の電極の電子線マイクロアナライザ(EPMA)による元素マッピングを行った.

結果と考察
各電極における液滴飛散による電極消耗速度を計測した結果, 2wt%と微量の添加濃度であるにも関わらず,添加酸化物の添加によりW電極の液滴飛散量に大きく影響を及ぼすことがわかった.
添加酸化物由来のThのEPMAマッピング像において,放電前の2wt%ThO2添加W電極には全体的にThO2が点在していることが示されている.一方,放電後の電極には,電極先端の溶融部周囲に集中的にThが存在している.これは,Wの融点(3695K)よりもThO2の融点(3323K)が低いためである.溶融部周囲の電極温度はWの融点以下かつThO2の融点以上である.したがって,溶融したThO2が表面に集中した.
また,溶融部内ではThが観察されなかった.この原因は,ThO2が蒸発し,EPMAの検出下限である1wt%よりも濃度が低下したためである.今後,誘導結合プラズマによる元素分析を行い,定量評価する必要性がある.

結言
本研究では多相交流アークの電極溶融現象を解明することで電極消耗の低減化を試みた.電極に添加した金属酸化物種により,液滴飛散量が大きく変化した.液滴飛散機構の解明には,電極先端の溶融部における添加酸化物の状態が重要であると示された.