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論文題目「ミスト供給型水プラズマシステムによる有機物の分解」

村上 寛


1.諸言
 熱プラズマによる廃棄物処理は,その高温という特徴を利用し多方面で実現されている.水プラズマは水を原料とする熱プラズマであり,豊富なH,O,OHラジカルの存在による高活性,およびプラズマの持つ高エンタルピーという特長から,水プラズマの高化学活性を活用する新しい廃棄物処理プロセスの構築が期待されている.
 既往の研究では,プラズマトーチ内部の吸湿材による毛細管現象を利用して,原料溶液を放電領域に供給していた.しかしこの方式では,原料供給の安定性や制御性が課題であった.そこで本研究では,原料溶液をミスト化し供給する新規な水プラズマ発生手法に着目した.
 水プラズマシステムでは,変動現象を十分に把握し制御することが分解効率の向上につながる.しかし,本システムは新規なプラズマ発生手法であるため,アーク変動の観察は十分に行われていない.そこで本研究では,ミスト供給型水プラズマシステムの廃棄物処理への実現を目的とし,アークの変動現象を明らかにするため,高速度カメラとオシロスコープを用いた同期計測と有機物の分解実験をおこなった.

2.実験方法
 本研究では,2つのプラズマトーチを用いて,発生させるミストの量を変化させて実験をおこなった.トーチ底部に設置した4つの超音波振動子により溶液をミスト化し直接放電領域に導入した.また,超音波振動子に供給する電力を32~47Wの範囲で変化させて,発生させるミストの量を制御した.プラズマ源は有機廃棄物のモデル物質としてエタノール水溶液を選定した.
 トーチ上部に設置した高速度カメラとオシロスコープを同期させ,アークの変動現象を可視化した.高速度カメラの撮影速度は2.2×105fps,シャッター速度は1 μsとした.また,分解実験では生成気体はガスクロマトグラフ,生成液体は高速液体クロマトグラフを用いて分析した.

3. 結果
 電流値6.0 A,プラズマ原料にエタノール10mol%水溶液を用いた時の電圧波形では,リストライク現象に起因するのこぎり型の電圧波形が観察された.リストライク現象とは,電極間の最近接位置で点弧したアークがノズル内ガス流により伸長し,消弧する現象であり,周期的に繰り返される.
 ミスト量が増加するとアーク投影面積は増加した.これは,放電領域で発生するプラズマガス流量が増加し,ノズル中のガス流速が増加したためである.また,周波数が増加したのは,ノズル中のガス流速の増加によりアークが1回のリストライクに要する時間が減少したためである.

4. 結言
 本研究では,トーチ底部に設置した超音波振動子を用いて,原料溶液をミスト化することで放電領域に供給しプラズマを発生させた.ミスト量を変化させることで,原料供給量を制御することに成功した.また,エタノール水溶液をプラズマで分解することで,高濃度の合成ガスと高い分解率が得られ,ミスト量に影響するアークの変動を観察することができた.以上より,本システムにおいてアークの変動を理解し制御することで,廃棄物処理の実現を可能にすることが期待される.





学士論文の内容は2019年6月11日にテレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」にてテレビ放映されました。  詳細はこちら


プラズマ・核融合学会 九州支部第25回支部大会 講演奨励賞 (2022年3月)
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