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論文題目「高速度カメラを用いた水プラズマの放電特性の解析」

松尾剛志

緒言
熱プラズマによる廃棄物処理は多方面で実現しているが,そのプロセスは熱プラズマの高温という特長を利用している場合がほとんどである.プラズマ源として水を用いる水プラズマでは,H, O, OHラジカルによる高活性という特長を活用することで,新しい廃棄物処理プロセスの構築が期待されている.
これまでの体系的な研究により,水プラズマによる有機物の分解機構が明らかにされている.一方,水プラズマの放電特性に関する研究は充分でない.水プラズマを用いた効率的な廃棄物処理プロセスの構築には,その放電特性を理解し,効率的な廃棄物分解を実現することが重要である.そこで本研究では,大気圧水プラズマの放電特性を解明することを目的とし,(i)発光分光法によるアーク温度計測,(ii)高速度カメラを用いたアーク変動および陰極変動現象の解析を試みた.

実験方法
実験装置は大別して,水プラズマトーチ,プラズマ電源,送液ポンプからなる.Hf陰極とCu陽極間に直流電圧を印加し,直流アークを発生,維持させることで,水プラズマを安定的に発生させている.圧力は大気圧とし,プラズマ源としては水,グルコース水溶液,メタノール水溶液を使用し,溶液濃度は0.0〜10mol%で変化させた.その他の操作条件として,アーク電圧は80-220 V,アーク電流は,6, 7.5, 9.5 Aの範囲で変化させて実験を行った.水プラズマの温度分布を明らかにするために,分光器を用いた温度計測を行った.計測には,水素原子からの線スペクトルによるボルツマンプロット法に基づき水素原子の励起温度を評価した.陽極ノズル先端部から軸方向への温度分布を評価した.水プラズマトーチの上部に配置した高速度カメラを用いて,アークおよび陰極点の変動現象の観察を試みた.撮影速度は420000 s-1,シャッター速度を1 μsとした.アーク変動と電圧変動の関係を調べるために,高速度カメラとオシロスコープを同期させて計測した.

実験結果
アーク電圧はのこぎり波形であり,その周期は約26 μs (38kHz)であることが確認された.このような波形は,アークのリストライク現象に起因している.リストライク現象の1周期の間,アーク電圧の増加に伴い,アークがノズル内部よりノズル出口へと伸長している様子が確認できる.さらに,42 μs以降ではアークがノズル外部へと飛び出し,同時に半径方向へも広がっていく様子が観察された.ノズル外部において半径方向へ広がったアークは,被処理物質の分解に寄与することができない.そこで,電圧波形と高速度カメラ画像を対応させることで,ノズル出口より半径方向外側に存在するアークが有するエネルギーを算出した.ここで,アーク全体が有するエネルギーの内,ノズル出口より半径方向外側に存在するアークが有するエネルギーの割合を,無効エネルギーと定義した.アーク電流値の増加に伴い,無効エネルギーが増加する傾向が確認された.これはアーク電流値が増加すると,水の供給量,すなわちプラズマガスの流量が増加するためだと考えられる.アーク電流値が6 Aのときは3.3%程度であるが,9.5 Aでは9.4%となることから,アーク電流値が増加すると被処理物質の分解効率が低下する可能性があることを示している.

結言
本研究では,高速度カメラによりアークの変動現象を観察することで,水プラズマの放電特性の解析を行った.アーク電流値の増加に伴いアークの半径方向の広がりが増加し,アークの有する有効エネルギーは減少することがわかった.以上より,アーク変動をノズル内部に抑えることにより,被処理物質の分解効率向上が示唆された.


日本機械学会 熱工学部門 若手優秀講演フェロー賞 (2017年2月)「水プラズマのアーク制御による廃棄物処理の高効率化」 詳細はこちら



卒業論文の内容は2016年4月24日にBS-フジテレビの「革新のイズム」にてテレビ放映されました。  詳細はこちら

業績は修士論文をご覧ください。