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論文題目「高速度カメラを用いた多相交流アークの温度変動特性の解析」

丸山大貴

緒言
多相交流アークは,熱プラズマの中でもエネルギー効率が高く,プラズマ体積が大きい,ガス流速が遅いといった利点を持つ.そのため,インフライトガラス溶融やナノ粒子合成プロセスへの応用が期待されている.しかし,多相交流アークは新規な熱プラズマ発生装置であるため,その基礎現象の理解が不十分である.多相交流アークをより効率的にプロセスに適用するためには,アークの温度場や変動特性を解明し制御することが必要不可欠である.そこで本研究では,高速度カメラを用いた温度計測手法を確立し,多相交流アークの温度変動特性を解明することを目的とした.

実験方法
多相交流アークは,炉側面から複数の電極を放射状に均一に挿入し,各電極に位相の異なる電圧を印加することでアークを発生させる熱プラズマ発生手法である.本研究では,印加する電圧の周波数を60〜180Hzの範囲で変化させ,温度特性に及ぼす影響を評価した.プラズマ発生に関する操作条件として,放電相数を6相,電極1本当たりのアーク電流を120 A,雰囲気圧力を100 kPaとした.プラズマガスとしてArを用い,各電極の近傍にはArシールドガスを2 L/min流した.
時間分解能が高く,二次元観察が可能である高速度カメラに,特定の波長の発光のみが透過するバンドパスフィルター(BPF)光学系を組み合わせた計測システムを装置上部に設置して温度測定を行った.計測原理としては,Ar原子からの複数の線スペクトルの発光強度比よりAr原子の励起温度を算出するボルツマンプロット法を採用した.BPFにはAr原子からの発光のみを観察できる675 nmと794 nmの波長を選定した.

実験結果
多相交流アークの温度分布のスナップショットにおいて,アークの温度域は7000〜12000 Kであり,電極間に働く回転磁場によりアークがスイングするため,ミリ秒オーダーで温度場が変動していることが示されている.
炉中心部のアーク温度の時間変動において,60Hzでは中心における平均温度が約7500 Kであるのに対し,180Hzでは約8500 Kであり,周波数の増加に伴いアーク温度が上昇していることが示されている.また,60Hzでは中心にアークの存在しない時間があり,温度検出下限以下の温度にまで低下している.一方180Hzでは,温度変動幅が小さい.この理由として2つのことが考えられる.まず,周波数が増加するとローレンツ力の変動が速くなり,それにアークが追従できなくなる.したがって,周波数が大きい条件ではアークのスイングが小さくなり,恒常的にアークが中心に存在するため温度変動幅が小さくなる.また,中心が局所的に高温になることでジュール加熱が大きくなりArのイオン化が促進される.これにより,中心に高い導電領域が形成され,アークが中心に集中し,高温場が恒常的に維持される.

結言
本研究では,適切なBPF光学系を組み合わせた高速度カメラ計測システムを用いることで,多相交流アークの温度場の可視化に成功した.交流周波数を増加させることで,より高温で温度変動の少ない領域を反応場中心部に形成した.本計測システムを用いて温度場の変動特性を計測・制御することで,多相交流アークを用いたプロセスの実用化及び高効率化を達成できる.


プラズマ・核融合学会 九州支部第23回支部大会 講演奨励賞 (2019年12月)「窒素雰囲気における多相交流アークの温度変動現象の可視化」

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