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論文題目「直流水素アークにおける電極現象」

近藤大紀

緒言
直流アークを利用した金属ナノ粒子合成プロセスにおいて,プラズマガスに水素を添加することで,金属蒸発を促進し生産性を飛躍的に向上させることが可能である.同時に,金属蒸気をはじめ様々な影響によりアーク特性が変化するため,同プロセスではアークの制御が重要となる.そこで本研究では,高速度カメラ計測を用いることで,直流水素アークにおける電極現象の解明を目的とする.陰極においては,放電中の陰極温度計測を試みることで,陰極消耗現象について考察する.陽極においては溶融池表面の対流の可視化を試みることで,直流水素アークにおける電極現象とアーク変動との関係性を検討した.

実験方法および解析方法
本実験で用いた直流アーク発生装置の概略図をFig. 1に示す.陰極としては, 2wt%ThO2または0.6wt%Nd2O3を添加したWロッドを用い,陰極直径は6 mm,先端角度は60度とした.陽極上にNiの金属塊を設置し,陰極との間でAr-H2雰囲気でのアーク放電を発生させた.操作条件としてH2濃度を20~50%,電流値を100~200 Aと変化させた.電極間距離は10 mm,シールドガス流量は5 L/minとした.陰極温度の測定と陽極表面対流の可視化ために,高速度カメラと適切なバンドパスフィルター(BPF)光学系を組合せた計測を行った.プラズマガス由来の線スペクトルの影響のない785 nmと880 nmをBPF波長とし,二色放射測温法に基づき陰極表面温度を計測した.陽極溶融地表面の観察には,トレーサー粒子を用い,陰極と同様のBPFを用いて表面対流の観察を試みた.

実験結果および考察
電流値の増加にともない陰極温度は上昇傾向を示した.これは電流値の増加にともない中心方向のローレンツ力が増大することで磁気的ピンチが起こり,電流密度が増加したと考えられる.また,2wt%ThO2-W電極の方が0.6wt%Nd2O3-W電極に比べ最高温度が高い傾向が見てとれた.これは,以下の2つの原因によるものだと考えられる.一つは,Nd2O3とThO2の融点が異なるためである.Nd2O3の方が,融点が低く(2506K),熱電子放出を担うNd2O3領域が陰極表面に広く分布しやすい.一方,ThO2は相対的に高融点(3323K)であり,溶融領域が電極先端の狭い領域に限られる.従って,ThO2領域が先端部に集中し,電流密度がより上昇したため高温となったと考えられる.このような例は,ThO2とLa2O3(融点:2490 K)において報告されており,本系でも可能性として充分考えられる.二つ目の要因は,仕事関数がNd2O3とThO2で異なるためである.ただし,Nd2O3の仕事関数が明らかになっていないため,現時点では推察の域を出ない.アーク電流値の増加に伴い,電極消耗量が増加傾向を示した.これは先述のように,電極温度が上昇したことにより蒸発量が増加したためだと考えられる.同様の理由で,電極の消耗量が抑制されたと考えられる.

結言
本研究では,高速度カメラと適切な光学系を組合せることで,陰極温度計測,陽極表面対流の可視化を試みた.水素濃度,アーク電流値の増加にともない,陰極温度,陰極消耗量は増加傾向を示した.以上より,電極消耗を抑制するためには,材料の使用が望ましいことが示された.

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