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論文題目「水プラズマシステムによる難水溶性物質の処理」

糸山みのり

1.緒言
 水プラズマは水を原料とする熱プラズマである.豊富なH,O,OHラジカルによる高活性およびプラズマの持つ高エンタルピーという特長から,廃棄物処理技術への応用が検討されている.特に廃油などの難水溶性廃棄物はその処理の難しさから,プラズマの高温を利用した水プラズマ装置の開発が進んでいる.
 このような難水溶性物質のプラズマ分解法として,以下の二つがある.一つは被処理物質を濃度均一なエマルション溶液としてミスト化し,放電領域に導入する方法,もう一つは対象物をプラズマジェットに直接投入する方法である.しかし,いずれの処理方法においても学術的検討は十分に進んでいない.
 そこで本研究では,水プラズマ分解における難水溶性物質の分解現象を解明することを研究目的とする.難水溶性有機物のモデル物質として1-デカノールを選定し,そのエマルション溶液をミスト供給型水プラズマトーチにより分解した.

2.実験方法
 実験装置は水プラズマトーチ,直流電源から構成され,トーチ内の超音波振動子により原料溶液をミスト化し,アーク放電領域に直接導入することで,大気圧水プラズマを発生させる.界面活性剤を用いて1-デカノールエマルション溶液を調製し,原料とした.操作条件としては,アーク電流を6.0〜9.5 A,原料濃度を0.05~0.25mol%の範囲で変化させて実験を行った.
 分解後の生成気体および生成液体を回収し,気体はガスクロマトグラフ(GC),液体は全有機炭素計(TOC)および高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて分析を行った.

3.実験結果
 アーク電流値がTOC除去率および1-デカノールの分解率を求めた.分解率とTOC除去率の差は副生成物の割合を表し,分解率は最大で99.9%と大きい値が得られた.また,アーク電流値の増加に伴って分解率は増加し,TOC除去率は緩やかに上昇した.これは,出力の増加に伴って放電領域が増加し,原料の分解が促進されたことに起因する.
 さらに,供給した原料中の炭素を基準とした分解生成物の炭素収支の結果より,生成液体中に残存している炭素は7%未満であり,分解された原料は主に固体,CO,CO2へと変換されたことがわかった.さらに,アーク電流値の増加に伴い,固体中の炭素に減少傾向が見られた.このことから,固体炭素は分解反応の中間生成物であると示唆される.既存のプラズマ装置では,固体の生成は抑制されており,今後,本装置の高効率化が望まれる.

4.結言
 ミスト供給型水プラズマシステムを用いて1-デカノールエマルション溶液の分解処理を行った.原料の分解率は99.9%以上となり,今後の効率化により,難水溶性物質の処理装置として適用可能であることが示唆された.さらに,水プラズマの廃棄物処理装置の適用を目指し,直流電源とプラズマトーチをトラックに搭載した車載式水プラズマ装置を用いて,実際に難処理物質である難燃性作動油の分解実験を行う.

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