| ホーム | 渡辺教授 | 研究 | 業績 | 装置 | メンバー | 卒業生 | 学生業績 |
| 講義 | 学会報告 | 入学希望者 | トピックス |

論文題目「高速度カメラを用いた多相交流アークの温度測定」

今辻智幸

緒言
熱プラズマの一つである多相交流アークは,プラズマ領域が広く,エネルギー効率が高い.したがって,インフライトガラス溶融やナノ材料合成など,多量の粉体処理プロセスへの展開が期待されている.しかし,多相交流アークは多電極間に交流電圧を印加することで複雑な放電場を形成しているため,温度場,速度場などの空間分布および変動特性が充分に理解されていない.そこで本研究では,多相交流アークの温度変動を明らかにすることを目的とし,高速度カメラを用いた温度計測手法の確立を試みた.

実験方法
多相交流アーク発生装置は,炉側面から12本の電極を放射状に均一に挿入し,各電極に位相の異なる電圧を印加してアークを発生させる熱プラズマ装置である.プラズマ発生に関する操作条件として,放電相数を6相または12相とし,交流周波数を60〜240Hzの範囲で変化させた.

計測手法の確立
本研究では,時間分解能が高く,二次元観察が可能である高速度カメラに,バンドパスフィルター(BPF)光学系を組合せた計測システムを用いることで温度測定を行った.測定原理としては,Ar原子からの複数の線スペクトルの強度比より,Ar原子の励起温度を算出するボルツマンプロット法を採用した.温度算出の精度向上のために,(i)波長および温度毎での連続スペクトルの混入率,(ii)波長毎のBPF透過特性の差,(iii)発光強度毎のCCD検出部の感度特性,(iv)測定レンズの透過率をそれぞれ考慮した.

多相交流アークの温度解析結果
異なる周波数の結果を比較すると,60Hzではアークが横にスイングしているのに対して,240Hzでは中心へ直線的に伸びていることが見てとれる.これは,高周波数の条件では,空間電磁場の変動にアークが追従できなくなったためだと考えられる.ナノ粒子合成プロセスなどで粉体処理を行う時は,電極間の中心領域での温度変動が重要となる.60Hzの条件では,アークが存在しない瞬間に,検出加減以下の温度にまで低下していることがわかる.240Hzでは,常にアークが存在しているため,温度変動幅が小さいことが見てとれる.これは,粉体処理を行う上で,重要な特性だと考えられる.周波数が低い条件では,被処理物質がアーク中に導入されない可能性があるのに対し,高周波数条件では,時間的に均一処理が可能であると示唆されている.

結言
本研究では,バンドパスフィルター光学系を組合せた高速度カメラ計測システムを用いて多相交流アークの温度変動を評価した.今後,本計測システムを用いて,温度場の変動特性を計測・制御することで,多相交流アークを用いたプロセスの実用化および高効率化が達成できると見込まれる.

結言
本研究では,高速度カメラと適切なBPF光学系を用いることで,従来困難であった非定常,非軸対象である多相交流アークの温度場の可視化に成功した.放電相数および雰囲気圧力が及ぼす温度特性への影響を検討した結果,放電相数および雰囲気圧力の制御により,変動を有する高温場の制御が可能であることが示された.


プラズマ・核融合学会 九州支部第19回支部大会
講演奨励賞 (2016年3月)
「多相交流アークの温度特性に及ぼす雰囲気圧力の影響」
この度は講演奨励賞という栄誉ある賞を頂きまして,大変うれしく,また光栄に思います.
私がここまで励んでこられましたのも,常日頃から熱心にご指導してくださった渡辺先生をはじめとし,田中先生や研究室の皆さまのおかげです.
この場をお借りして,皆様に心より御礼申し上げます.

業績は修士論文をご覧ください。