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論文題目「高速度カメラを用いた多相交流アークの電極現象の解析」

橋詰太郎

緒言
現在,ガラスは人々の生活の中で幅広く用いられており,身近に存在する素材として知られている.しかし,その製造に多量のエネルギーを消費する点が問題となっている.我が国のガラス産業は全産業の約1%に相当するエネルギーを消費する多消費型産業であるため,ガラス溶融技術の見直しが求められている.そこで,熱プラズマなどの高温熱源を用いた革新的ガラス溶融手法であるインフライト溶融技術が期待されている.
本研究では,熱プラズマの中でもエネルギー効率が高く,多量の粉体処理が可能な多相交流アークに着目した.多相交流アークは新規な熱プラズマ発生手法であるため,産業界に応用するには研究例が少ないことが問題となっている.特に,電極消耗の低減化は長時間の安定した連続運転や生成物への電極由来不純物の混入防止につながるため,電極現象の解析は非常に重要である.よって本論文では,多相交流アークの産業界への応用に向けた,電極現象の解析を目的とした.

実験方法および計測方法
多相交流アーク発生装置は,炉側面から12本の電極を放射状に均一に挿入し,各電極に位相の異なる電圧を印加してアークを発生させることで常に場にアークを維持することのできる熱プラズマ発生装置である.本研究では,この多相交流アーク発生装置の電極に対して高速度カメラを用い,電極温度測定,電極金属の蒸発挙動観察を行った.電極温度測定では,赤外線二色放射測温法の式を用いて温度を算出することとした.また,電極金属の蒸発挙動観察では,2元素の発光の強度比を算出することで,温度T の影響をできるだけ軽減させて金属蒸気濃度を評価した.

電極温度と金属蒸気挙動の解析
多相交流アーク発生装置はW電極先端部周辺にシールドガスであるArガスを流して電極の酸化を防いでいる.各位相での総伝熱量の違いから,陽極,陰極のピーク時に温度がピークとなり,特に陽極のピーク時に最高温度に達する.Ar流量2L/min時において,温度の高くなる陽極時に金属蒸気の発生を確認できた.これは,Arガス流量が不十分であると,電極であるWが周囲の空気と反応し,融点の低いWO3を形成してしまうためだと考えられる.各Ar流量において,電極温度に大きな差は確認されなかったが,最も電極の酸化が進む低流量時においてのみ金属蒸発が確認された.ここから,電極の酸化度合いは電極消耗量に非常に大きな影響を与えると考えられる.

電極からの液滴発生機構の解析
多相交流アークの電極は金属蒸発だけでなく,電極からの液滴飛散によっても消耗することが考えられる.そこで,電極先端角度,電流値が電極消耗量,液滴発生量にどのような影響を与えるかを検討した.電極角度が小さくなるにつれて,消耗速度が低下する傾向が確認された.これは,電極先端角度が小さくなるにつれて,電極近傍のアーク流速が増加し,電極周囲に流れるArガスによるシールド効果が向上したためだと考えられる.また,電流値の増加に伴い,消耗量が低下する傾向が確認された.これは,電流値の増加により電極近傍でのアーク流速が増加し,先程と同様に電極周囲に流れるArガスによるシールド効果が向上したためだと考えられる.
液滴発生機構を明らかにするため,液滴発生の動的挙動を高速度カメラにより観察した.その結果,液滴は陰極時のピーク前後または陰極時から陽極時に変わる時に多く確認された.観察された液滴体積から液滴発生による電極消耗量を推算すると,全体の電極消耗量を液滴としての電極消耗量が上回るという結果が出てしまった.この推算方法の問題点として,電極撮影時間が不十分である,もしくはW電極から発生する液滴にWO3が含まれている可能性を考慮していない,ということが挙げられた.今後の課題として,高速度カメラの撮影条件の見直し,液滴周りの酸素分布の観察による液滴内のWO3の有無の確認等が挙げられた.

結言
本論文では電極温度,金属蒸気挙動,液滴発生量の測定から電極現象の解析を行った.今後の課題・展望として,測定条件を変えた上での電極観察,液滴発生量の推算,実験を通しての液滴発生機構の解明が考えられる.


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