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論文題目「リング型陽極を用いたロングDCアークにおける変動現象解析」

橋澤晃生

1. 緒言
 半導体産業で主に排出される難分解性のパーフルオロカーボン(PFC)ガスは温室効果ガスであり,その地球温暖化係数はCO2の数千~数万倍である.PFC削減対策の1つとして,10,000 Kという高温を有する熱プラズマを利用した技術が注目されている.
 プラズマ発生手法の1つであるロングDCアークは,従来のDCアークと比べ電極間距離が1桁以上長く,処理物質の滞留時間が長いといった特長を有する.また,陽極径状を従来の円柱型からリング型に改良することで,陽極で失われていたアークの熱エネルギーを,利用可能なプラズマジェットとして陽極下部に発生させることに成功している.しかし,ロングDCアークは新規な装置であるため,変動特性は未だ未解明である.そこで本研究では,ロングDCアークの変動特性の解明を目的とした.

2. 実験方法
 本実験で使用したロングDCアーク装置では陰極とリング型陽極には水冷したCuを用い,電極間距離を350 mmとした.アーク電流は10 Aとし,装置上部よりプラズマガスとしてN2を30 L/minで流し,リング型陽極のノズル内径を15 mmとした.コイル位置は陰極より80 mmとし,コイル電流値0~1.0 Aにおける,外部磁場がロングDCアークに及ぼす影響の評価を,2台の高速度カメラとオシロスコープの同期計測により,アークおよびプラズマジェットの観測を行った.高速度カメラの条件は撮影速度10,000fps,シャッター速度100 µsとした.

3. 実験結果
 アーク電圧波形は,コイル電流値0 Aにおいてのこぎり型を示すリストライク現象が確認され,その周波数は約700Hzであった.リストライク現象とは,陽極に点弧したアークがプラズマガス流により伸長し,消弧および再点弧を繰り返す現象である.コイル電流値1.0 Aにおいては,ローレンツ力によるアークの旋回運動に起因した数十Hzの電圧変動が確認された. また,コイル電流値増加に伴い,平均電圧が上昇した.これは,アークが旋回運動を起こすことにより,アーク長が長くなるためである.
アークおよびプラズマジェットの高速度カメラにより撮影されたスナップショット,並びにアークおよびプラズマジェットの各スナップショットを重ね合わせることにより存在確率分布を算出した.コイル電流値増加に伴い,ローレンツ力によるアークの旋回運動が確認され,高温領域であるアークが反応管全体に広がった.また,コイル電流値増加に伴い,プラズマジェット縮小が確認された.アークが旋回運動をすることにより,軸方向における運動量が相対的に低下したためである.加えて,反応管におけるアーク存在領域拡大により,反応管において失われる熱エネルギー増加による,プラズマジェットが有するエネルギー量の減少が起きているためである.

4. 結言
 高速度カメラ2台を用いた同期計測により,ロングDCアークにおけるアークおよびプラズマジェット変動現象にコイル電流値が及ぼす影響を評価した.外部磁場印加により,アークおよびプラズマジェットの変動現象の制御が可能であることが見出された.外部磁場印加時のロングDCアークシステムによる,被処理物質の分解効率向上が期待できる.

業績は修士論文をご覧ください。