1.マイクロエマルションを応用したシリカ被覆金属ナノ粒子の調製

 本研究室では,マイクロエマルションを利用した担持金属触媒の調製を行っています.

 通常,担持金属触媒は金属カチオンを含む溶液中に担体を含浸することで調製されます.しかしこの方法では,担持される金属粒子の粒子径を精密に制御することはできません.本研究室で開発したマイククロエマルションを利用した触媒調製法では,図1に示したように,金属カチオンを含む油中水滴型のマイクロエマルション中でナノサイズの金属(化合物)粒子を生成し,このマイクロエマルション中で触媒担体も同時に合成します.

 我々が開発した方法では,マイクロエマルション中で金属粒子が生成しますので,マイクロエマルション中の金属カチオンの濃度などを変化させることで,精密に金属粒子径を制御できます.この方法で生成したシリカ担持金属触媒のTEM写真を図 2 に示しています.

 TEM写真で薄く見える粒子がシリカで,その中心に直径 2〜3 nm 程度の金属粒子(ここではAu, Pt, Fe3O4)です.このTEM写真から明らかなように,本研究室で開発した方法でシリカ担持金属触媒を調製しますと,金属ナノ粒子を均一にシリカで被覆できます.通常の担持金属触媒では,金属粒子は担体表面上に担持されていますので,高温を必要とする触媒反応に担持金属触媒を用いた場合には,金属粒子は激しく焼結(シンタリング)し,触媒活性が低下する問題があります.しかし我々が開発した触媒は,金属ナノ粒子がシリカで完全に被覆されていますので,高温下にさらしても金属ナノ粒子が全くシンタリングしない特徴があります.

その他にもシリカ被覆金属ナノ粒子触媒は,その特異な構造に由来するユニークな触媒作用を示します.以下では,本研究室の研究内容を簡単に紹介します.



 2.炭化水素改質による水素製造用触媒の開発

 水素社会の実現に向け,メタンの水蒸気改質,部分酸化,あるいはこれらを組み合わせたオートサーマル改質法による水素製造法の開発が求められています.

 メタン改質による水素製造法の実用化には,高活性・長寿命を示す触媒が必要ですが,メタン改質は通常800℃程度の高温で行われるため,通常の担持金属触媒を用いた場合,金属粒子のシンタリングが避けられません.一方,本研究室で開発したシリカ被覆ニッケル触媒は,金属ニッケルナノ粒子がシリカで被覆されているため,800℃以上でメタンの改質を行っても,金属ニッケルはシンタリングせず,シリカ被覆ニッケル触媒はメタン改質に対して高活性を長時間保持します.またシリカ被覆ニッケル触媒はプロパンの改質による水素製造に対しても,高活性,長寿命に加え,高い炭素析出耐性を示します.

論文)
Specific performance of silica-coated Ni catalysts for the partial oxidation of methane to synthesis gas, S. Takenaka, H. Umebayashi, E. Tanabe, H. Matsune and M. Kishida, J. Catal., 245, 392-400 (2007).



 3.炭化水素からのナノスケールカーボンの生成

 カーボンナノファイバー,カーボンナノチューブに代表されるナノスケールカーボンマテリアルは,その構造に由来する特異な物理的・化学的特性を有しており,ナノテクノロジーの分野での利用が期待されております.ナノスケールカーボンはFe, Co,Ni触媒上での炭化水素分解により製造できます.しかしナノスケールカーボンの製造には,700℃以上の高温を必要とするため,金属触媒がシンタリングし,均一な構造のナノスケールカーボンを生成できない問題があります.我々が開発したシリカ被覆コバルト触媒は,ナノスケールで構造が制御された金属コバルトを調製できるため,メタン分解により単層カーボンナノチューブを,エチレン分解により多層カーボンナノチューブを選択的に生成できます.

論文)
Structures of silica-supported Co catalysts prepared using microemulsion and their catalytic performance for the formation of carbon nanotubes through the decomposition of methane and ethylene, S. Takenaka, Y. Orita, H. Matsune, E. Tanabe and M. Kishida, J. Phys. Chem. C, 111, 7748-7756 (2007).



 4.水素―酸素燃料電池電極触媒の開発

 水素社会の実現化に向け,水素エネルギーを効率よく電気エネルギーに変換可能な固体高分子型燃料電池(PEFC)の実用化が期待されています.PEFCの電極触媒として,炭素担持白金触媒が用いられています.

 しかし炭素担持白金触媒は,水素中に含まれるごく微量の一酸化炭素(CO)により激しく被毒される問題があります.また炭素担持白金触媒をPEFC電極として長時間利用した場合,白金の溶出により電極が劣化します.本研究室では金属ナノ粒子をシリカで被覆する技術を応用し,炭素担持白金触媒のシリカによる被覆に成功しました.シリカで被覆した炭素担持白金触媒は,白金ナノ粒子が細孔構造を有するシリカで被覆されているため,白金上にCOが吸着せず,COによる被毒に対して高い耐性を示します.また白金をシリカで被覆することで白金の溶出が抑制され,長時間安定に発電できることを見出しました.

論文)
High durability of carbon nanotube-supported Pt electrocatalysts covered with silica layers for the cathode in a PEMFC, S. Takenaka, H. Matsumori, H. Matsune, E. Tanabe and M. Kishida, J. Electrochem. Soc., 155 (9), B929 (2008).

Improvement in the durability of Pt electrocatalysts by coverage with silica layers, S. Takenaka, H. Matsumori, K. Nakagawa, H. Matsune, E. Tanabe and M. Kishida, J. Phys. Chem. C, 111, 15133-15136 (2007)



 5.シリカ被覆金属触媒の分子ふるい作用

 シリカ被覆金属触媒では,触媒活性種として作用する金属ナノ粒子が,細孔径が2 nm以下の多孔性のシリカで均一に被覆されています.シリカ被覆金属触媒上での触媒反応では,反応分子が多孔性のシリカを拡散した後に,触媒活性点である金属ナノ粒子に接触します.よってシリカ中での反応分子の拡散速度の違いにより,反応選択性が制御できます.例えばシリカ被覆白金触媒上で飽和炭化水素の競争酸化を行った場合,化学的に最も不活性なメタンが選択的に燃焼することを見出しました.このようにシリカ被覆金属触媒のシリカの分子ふるい作用を利用することで,新たな触媒反応を設計することができます.

論文)
Control of selectivity based on the diffusion rates of the reactants in the oxidation of mixed hydrocarbons with molecular oxygen over silica-coated Pt catalysts, S. Takenaka, K. Hori, H. Matsune and M. Kishida, Chem. Lett. 34 (12), 1594 (2005).



 6.酵素を固定化した磁性粒子の開発

 酵素は優れた触媒ですが,貴重なため高価です.そこで酵素を磁性粒子に固定化して,利用後に磁石で回収して再利用する方法が提案されています.しかし酵素は固定化すると3次元構造が崩れ,著しく活性が低下することがしばしばです

 そこで本研究室では,シリカ被覆磁性粒子を作製し,そのシリカ層内に酵素を埋包する方法を独自に開発しました.合成は簡便でワンポッドで作製できます.生体分子との親和性が高いシリカに酵素を埋包することで,元の酵素と同程度の酵素活性を維持させることが可能となりました.また磁石を用いることで,酵素反応を行った溶液から,ほぼ100%の酵素を容易に分離・回収することができます.また繰り返し利用しても,酵素の失活がほとんどありません.現在は,本手法を応用して有機溶媒中での酵素反応に挑戦しています.

論文)
One pot synthesis and characterization of laccase-entrapped magnetic nanobead, H. Matsune, Hitoshi Jogasaki, Masato Date, S. Takenaka, and M. Kishida, Chem. Lett. 35 (12), 1356-1357 (2006).



 7.単一ES細胞のダイナミクス計測と細胞機能の解明

 再生医療の分野で胚性幹(ES)細胞が注目されています.ES細胞は自己複製能と分化多能性の両方を併せ持つ特異な細胞です。しかしその特性や分化機構には未解明な点も数多く残っています。

 そこで本研究室では顕微鏡上で細胞を培養し単一細胞レベルで観察するシステムを独自に開発しました。これを用いてES細胞のダイナミクスを追跡および分析して,その挙動や細胞特性を調べる研究を行っています。特に,細胞が示す動的な挙動が細胞の機能とどのような相関関係にあるかを明らかにしています。また光ピンセットは細胞を非接触・非破壊で捕捉ならびに移動が可能な装置ですが,これを本システムに組み合わせて,独自の選別基準で細胞を分離するシステムの開発を進めています。以上のように独自に開発したシステムを用いて新しい観点から細胞を調べ,細胞特性を明らかにする研究をおこなっています。

論文)
Relationship between degree of dynamic morphological change and proliferative potential of murine embryonic stem cells, H. Matsune, D. Sakurai, Y. Niidome, S. Takenaka and M. Kishida, J. Biosci. Bioeng., 105, 58-60 (2008).